AppleがSamsungに敗れた日

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日本時間の9月13日早朝、アップルはiPhoneの新機種を発表した。iPhone大好きな日本では恒例のお祭り騒ぎで、iPhone礼賛の言説ばかり。例年のことながら、躁状態にある。

1995年以来のMacユーザでありながらメインのスマホは現在Xperiaというややひねくれた私から見るとしかし、少し違った構図に見える。

今回の発表の目玉は、言うまでもなくiPhone X(テン)。私の重視する点を中心に主な特徴を挙げると以下の通り。

  • 全面ディスプレイ。有機ELディスプレイを初採用
  • 5.8インチ
  • 458dpi
  • 耐水・防塵はIP67
  • それぞれ12MPの広角(f1.81)と望遠(f2.4)の背面ダブルカメラ
  • 7MP(f2.2)の前面カメラ
  • 指紋認証を廃止し、顔認証のみ(虹彩認証はなし?)
  • FeliCa搭載
  • RAM 3GB、ROM最大256GB
  • バッテリー容量は言及なし。最大通話時間が21時間(1260分)
  • ワイヤレス充電(Qi対応)
  • microSD非対応

iPhone SEまで出して旧来デザインを守ったり、頑なに円形ホームボタンにこだわるなど保守的だったiPhoneに見慣れた人々からすると「大革新」になるのかもしれない。

一方、半年前の2017年3月29日に発表されたSamsung Galaxy S8+の特徴を同様に挙げると。

  • ほぼ全面ディスプレイ。有機ELのAMOLEDを引き続き採用
  • 6.2インチ
  • 529dpi
  • 耐水・防塵はIP68
  • 背面カメラは1220万(f1.7)のシングル
  • 前面カメラは800万(f1.7)
  • 背面に指紋認証、カメラで虹彩認証、顔認証
  • FeliCa搭載
  • RAM 4GB、ROM 64GB
  • ワイヤレス充電(Qi対応)
  • バッテリー 3500mAh(ドコモ版はLTEで連続通話1430分)
  • microSD対応

こうやって比較すると、iPhone Xが明らかに優れているのは背面のダブルカメラぐらい。ただダブルカメラはSamsungが奥手だった部分。それも8月発表の「Note 8」で搭載している。全面ディスプレイもすでに中華メーカーがSamsungをまねて同じようなものを相次いで発表している。結構死活的なのは、セルフィーばやりの今、前面カメラがf2.2という点と、引き続きLigthening端子という点だろう。

iPhone文化圏でのみ見ればiPhone Xは革新的なのだろうが、実際には、iPhoneがやっと他のスマホ、つまりAndroidのトレンドにようやく追いついたに過ぎない。それなのに、13日のプレゼンテーションで、アップルのCEO、Tim Cookは、

Ten years later, it is only fitting that we are here in this place, on this day to reveal a product that will set the path for technology for the next decade.

(ざっくり訳)(初代iPhone発売から)10年後のきょう、まさにこの場所、この日に、今後10年の技術発展の道筋を決定するような製品を発表するためにここにいる

と誇らしげに語った。

つまりTim Cookは、Galaxy S8+をはじめとするAndroidのトップ機種が先行し、アップルがiPhone Xでようやくキャッチアップできた特徴が、今後の方向性だというのだ。つまりこれは、トレンドをリードして来たと自負するアップルの、Samsungなどに対する「敗北宣言」に等しい。自らがリーダーなのではなく、今やtrend setterはアンドロイドのハイエンド商品と追認したのだから。多少の皮肉をこめていえば、iPhoneは真似される対象から、アンドロイドを真似する立場に落ちてしまった、ということだ。

むろん、iOSとハードとの親和性による使いやすさなど、スペックには表れず、体感でしかわからない優位点もあるとは思う。しかし、アプリなどで変えられる「使い勝手」とは違い、購入してから変えようもない端末単体の機能で、アップルがiPhone新機種によって本当の「未来」を示せなかった、という現実は変わらない。

日本では狂想曲ばかりだが、お膝元のアメリカでは、冷静な報道もある。

The iPhone X—which also boasts depth sensors and a dual-lens camera system—arrives amid questions about Apple’s innovative strength. Rivals such as Samsung have matched or leapfrogged ahead of Apple’s smartphone features, introducing larger displays using organic light-emitting diode (OLED) technology and water resistance before Apple did. Meanwhile, rival smartphone makers in China are closing the gap offering similar features at far lower prices.

Apple Unveils New iPhone X to Fend Off Growing Competition (WSJ.com)

(ざっくり訳)iPhone Xは深度センサーやダブルカメラを備えていると誇らしげだが、アップルは昨今、革新力に疑問符を付けられている。サムソンなどライバルたちは、アップルのスマホが備えている機能と同等かもしくは先を行く機能を備えた機種を発売しており、アップルが対応する以前に、大画面や有機ELディスプレイ、防水機能などをすでに提供していた。また中国市場では、そのような機能をもっと低価格で提供している企業もある。

加えて、現行iPhoneのバリエーションが、これによりSE、6s、6s Plus、7、7 Plus、Xとやたらに拡大してしまった。

経営が傾いたアップルにCEOとして復帰したSteve Jobsがまず最初にやったことは、当時乱立していたMacの機種を整理し、わかりやすく4つのマトリクスにまとめ上げたことだった。

iPhone発売から10年ということで、プレゼンではことあるごとにJobsを引用していたアップル幹部たちだったが、Jobsがこの機種乱立ぶりを見ればきっと嘆いたことだろう。また、厳しく情報統制し、プレゼンで観客に驚きを与えたJobsが、事前のリーク情報通りでほとんど驚きのなかった今回の発表を見ればきっと激怒したことだろう。

ものすごく高価であるにもかかわらず、iPhone Xは、それなりに売れるだろう。ただそれは、購入した人が「真に革新的なスマホ」を欲したからではなく、「iPhoneだから」と保守的に選んだからに過ぎない。いろいろな意味で尖っていたアップルが、iPhoneの成功であまりに普通になってしまったからと考えると、古い「信者」としては少し寂しくもなる。

 

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