パナマ文書~最初の犠牲者

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全世界ではかなり大きなニュースになっている「パナマ文書(The Panama Papers)」。その公開を受け、アイスランドの首相が辞任することになった。

Iceland’s Prime Minister Steps Down Amid Panama Papers Scandal(New York Times,  2016年4月5日)

なぜアイスランドの首相が糾弾されたかはWashington Postに詳しい。首相が英領バージン諸島に設立したペーパーカンパニーはアイスランドが財政危機に陥った2008年、破産した銀行に多額の債権を申し立てた。この会社は、首相の妻がオーナーだったが、実は2007年、首相に資産開示義務が課されるわずか前日に、わずか1ドルで首相から妻に売却されたものだった。結果的にこの会社は多額の債権を回収している。つまり、首相は自国の経済危機を利用して、妻の、そして実質的には自分の会社を肥やしたことになる。

これがアイスランドの人々の怒りを買い、パナマ文書の公表後の4日には、首都レイキャビクで8000人の抗議デモが起きた。8000人は多くはない数字に見えるが、アイスランドの人口は33万人。日本に置き換えると315万人、つまり日本で3番目に人口の多い大阪市民より多く、2番目に多い横浜市民に迫る数の人がデモを行ったというインパクトがあった。

NYTの記事ではこのほか、フランス、ドイツ、オーストラリア、韓国の捜査当局が調査を開始したほか、パキスタンや中国でも影響が出始めたことを報じている。

日本人の政治家などはこれまのところ現れていないこともあり、日本の報道はかなり静かだ。The Yellow Monkeyの「JAM」ではないが、「乗客に日本人はいませんでした」しかニュースにならない国だ。日本人著名人の名が現れた途端、狂ったように報道を始めるだろう。

それと同じく、名が出てこないのがアメリカ。この点について、米NBCが「Why Are Americans Not Included in the Panama Papers?」(2016年4月5日)という記事を出している。流出した資料が膨大なため、まだこれから出てくる可能性があるとか、単にアメリカ人がこの法律事務所を使ってなかったからだとか、まあ推測の域を出ていないけれども視点としては面白い。日本の報道機関もこの形で記事を書くことはできた。

何とか工夫して記事を書いて伝えないと、読者にはそのニュースが無いのと同じことになる。たとえば中国では、

But in China, where the names of relatives of several top leaders have been found in the leak of millions of pages of documents from a Panamanian law firm that expose the murky world of offshore companies, most citizens will never hear of the news.(New York Times, 2016年4月5日)

ざっくり訳。しかし中国では、パナマ文書で指導部の親族の名が出ているにもかかわらず、ほとんどの国民はこのニュースを知らない。

中国政府が強力な検閲と報道規制を行っているため、一般市民にとって、世界で騒がれているパナマ文書はないことと同じになっている。日本ではそんな検閲や報道規制はないが、一般市民にはパナマ文書はないことと同じになっている。なぜなら、このニュースは大事だ、何とかして伝えようという意欲や創意を、ほとんどのマスメディアが欠いているからだ。

最も報道が早かったのは、ICIJに参画しているという朝日新聞で4日付朝刊1面に本記、第2社会面では「日本からも400人・企業」。続いて読売新聞5日付朝刊国際面、同日産経新聞1面。毎日新聞が追いついたのは、アイスランド首相の辞任を報じる6日付夕刊になってからだった。

ただ、日本の読者が知りたいのは、朝日社会面にあるような病院経営者や実業家ではなく政治家や著名人。400人の中にはそれがなかったということなのか。ないならないで、なぜないかを報じるのが、1次資料を持っているはずの朝日新聞の責務のはずだ。

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