Lame duckなイニシアティブ

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アメリカ大統領の妻ミシェルが3月18~20日に日本、21~22日にカンボジアのシエムレアプを訪問することが発表された。

As Part of the Let Girls Learn Initiative, First Lady to Travel to Japan and Cambodia March 18-22(White House、2015年3月2日)

表題にもある通り、女子教育を世界で推進するためのイニシアティブを、Peace CorpsやUSAIDなどを通じて行うことを3日に表明しており、日本やカンボジアへの訪問はその一環。ミシェルがファースト・レディーとして日本を訪れるのは初めて。

それを伝えた4日付読売朝刊の記事はひどい。このイニシアティブのことはさらっと流す一方で、「カンボジアにも訪問」と、てにをはすら怪しい日本語を通してしまった。一方、同じ4日付朝日朝刊はそつなくまとめていた。毎日は紙面に記事がなく、サイトには短い共同電のみ。こんな訪問には意味がないということを示すためとすれば、それもまあ一つの見識とはいえる。

それはともかく、これまで「娘の学校の都合」という理由にはならない理由で日本に来なかったミシェルが、このイニシアティブ対象11カ国に入っていない日本を、「女子教育の推進」という日本にはそぐわない理由で、この時期に東北ではなく東京と京都を訪れる理由を、読売も朝日も、におわせもほのめかしもしていない。

つまり、ホワイトハウスが発表した英語を単に日本語にしているだけであり、それなら別にワシントンにいる必要もなく、こうやってホワイトハウスの発表文を読んで、まったく同じ記事を書くこともできる。

高い維持費と人件費を払って駐在させているからには、もっとエッジのきいた記事を書けばいいのにと思うが、各社にとってワシントンは出世階段の一つだから、記者は記者でそんな冒険はしない。東京本社のデスクはデスクで、他社に抜かれることばかり恐れて、内容で他社と差別化することには気を回さない。

「マスゴミはこれだからな」と2ch的な反応をすれば溜飲を下げられる小物もいるのだろうが、だからこそ、自分で情報を漁ればよろしい。

たとえば、

Spring break: The real reason Michelle Obama is going to Japan(Christian Science Monitor、2015年3月3日)

を読めば、前回オバマ一人で来日したことで日本人が「同盟国としての地位を下げられた」と感じた心の傷を癒しに来る償いの意味があるとみえる。

特に、

To add diplomatic insult to injured national pride, Mrs. Obama had the audacity to vacation with her daughters – less than a month prior to the president’s solo Japan visit – in China.

ざっくり訳:気付けられた(日本の)国のプライドにさらに外交的侮辱という塩を塗るかのごとく、ミシェルは、大統領の単独訪日のすぐ直前に、娘たちを連れて休暇を過ごすという尊大さを見せた。しかもそれが中国だった。

ということがあったら、そのお詫びというわけだろう。

アメリカ人のよく読んでいる英Mail Onlineは、

There were so far no details on the cost of the trip but the First Lady’s group spent $222,000 over two days in hotel expenses during the 2014 China visit

ざっくり訳:今回の旅行について詳細は明らかになっていないが、2014年に中国を訪れた際は、ミシェル一行は2泊のホテル代で22万ドルを使っていた。

と、またもや豪遊になるだろうという観点で書いている。

一方のカンボジア。今回のイニシアティブの対象国にアジアで唯一、選ばれているから、行く理由としてはまあ日本よりはある。ところがPhnom Penh Postは、カンボジアを訪れた初の現職大統領となったオバマが当時、訪問に後ろ向きだったこと、ミシェルがフン・セン首相に会うかどうかも不明なことを伝え、ホワイトハウスの表面的な言葉とは違い、今回のミシェル来訪も単なる娘2人との観光旅行に終わりそうなニュアンスを示している。

まあもっと現実的に言えば、オバマの任期は今年いっぱい。その後はミシェルも単なる「元大統領夫人」になるわけだから、来年以降も食べられる売り込みをまずはしておかないといけない、そんな切羽詰まった状況もある。

どうせ「女子教育」で売り込むなら、イギリスのマララとか、ナイジェリアのボコハラムに開放された女性とかに会いに行けばいいのだが、オバマが行ったものの自分は一緒に行かず失望を招いた日本とカンボジアが最初というのでは、このイニシアティブの底は知れている。

そこまで書けとはいわない。しかし、せめて今回の訪問があまり実質のない、おざなりの訪問であることを読者に分からせる文章を書けなかったのか。横のものを縦にするだけで食べられたのは昔のこと。今は外国語を読める人も多く、外国語の情報を瞬時に手に入れられるインターネットもある。現地にいるからこそ感じられる、現地にいるからこそ書ける記事を書かないと、読者はどんどん離れていくだろう。

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