誰がために鉄道は伸びる

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中国の昆明からラオスのビエンチャンまで約420キロの高速鉄道計画について、両国が近く正式な文書に調印する見通しとなった。

Laos and China Prepare to Sign Construction Contract for High-Speed Railway Project(Radio Free Asia、2015年3月13日)

総工費は72億ドル(約8700億円)というビッグプロジェクト。完成すれば、北は昆明からラオス、タイ、マレー半島を通ってシンガポールまでの路線がつながることになる。ラオスと中国が結ぶ正式文書の内容は不明ながら、当初の計画では、中国側が7割、ラオスが3割を負担する話になっていたとか。これだけだと「また中国が南下政策の一環として、東南アジアに進出しようとしている」と受け取れるのだが、記事には少し趣の違う記述がある。

The Lao parliament gave the go-ahead for the project in October 2012 even after a Chinese construction company pulled out of the venture fearing the rail link would not generate enough profit.

The Manila-based Asian Development Bank has said it believes the project is unaffordable and could plunge Laos into debt.

ざっくり訳:この鉄道計画が十分な利益を生み出さないと危惧した中国企業が事業から撤退した後になっても、ラオス国会は2012年10月にこの計画にゴーサインを出していた。

アジア開発銀行も、この計画は財政的に無理で、ラオスは多大な借金を背負うことになるとしている。

つまり、中国も逃げ腰のようにもみえ、日本の影響力が強いアジア開発銀行も消極的なプロジェクトといえる。ただラオスにとっては、比較的安価に大量輸送が可能な鉄道ができれば、「the Lao-Chinese railway project “was crucial to boosting economic and trade cooperation between the two countries”」(昨年4月、ラオス首相が訪中した際の共同声明)でもあるから、何としても実現したいものなのだろう。

このRFAの記事はウェブで見られるのだから、おそらく各新聞社の北京、バンコク駐在記者は読んでいることだろう。であれば、次に考えるのは、実際に調印された際に、どんな記事を書くのかということのはず。「調印した」だけの記事なら恥ずかしい。中国の南下の意図を書いてあればまあ恥ずかしくはないが真っ当すぎて、しかも上述の通り事実関係と少し違うから面白くはない。日経あたりはAIIBとの絡みを書いてくるかもしれないが、それも想定の範囲内。果たしてラオスに、積むべき荷物や下ろすべき荷物、利用する人口があるのかという点に及んでいれば及第点。さてさてどんな記事が出てくるか、もしくは書かずに無視するか、各紙の編集判断と記者の力量をまずは見てみようではないか。

このラオス「新幹線」、財政や需要は度外視して、地域として国としてのプライドのみで鉄道を敷くというのは、日本の整備新幹線にも似ている。その裏側で在来線が廃止され、かえって不便になることにも似た悪影響が、ラオスになければよいのだが。

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