テフロン・エコノミーの終焉

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度重なるクーデターや、大洪水などの自然災害があっても、外国投資が流入し続け、旅行者が訪れ続けるタイ経済を、油汚れを寄せ付けず傷もつかないフライパンに使われる技術になぞらえて、「テフロン・エコノミー」と呼ぶのだそうだ。

Thailand’s Teflon economy finally seems to be cracking(Quartz、2015年3月25日)

記事はこう指摘する。

But the era (中略) appears to be over. Fifteen years of political chaos has distracted Thai policymakers from making important investments in infrastructure or the country’s education system, which has never been upgraded to prepare people for a middle-income economy. In particular, Thailand’s English and information-technology classes lag badly behind those of Thailand’s regional competitors.

ざっくり訳:しかしこうした時代は終わるようだ。15年にもわたる政治混乱で、政権はインフラや教育システムに重要な投資を行うことができなかった。教育はアップグレードされず、中産国となるのにふさわしい国民を育てることができていない。特にタイでは、英語とITの教育は域内のライバル国と比べても遅れている。

「遅れている」ことの根拠として挙げられているのは、英語テストでタイが60か国中55番目であることしかなく、ITに関しては理由も提示されていないなど、論としては説得力に欠いている記事ではある。唯一の理由である英語テストも、たとえば日本も成績は悪いが経済規模としては世界3位であり、英語テストの成績が経済規模との相関性がないことは明らかだ。

だから、記事が主張するように、テフロン・エコノミーが本当に終わるのかという論点について説得力はまるでない。

この記事が面白いのは実は最後段だ。

The Japanese government continues to court Bangkok, even after the coup, as a means of stalling the Thai generals approach to China. Japan’s desire to blunt China’s influence is likely the major reason why Tokyo is proposing its own plan for funding a rail line in Thailand. (The Chinese government has proposed its own, competing rail project in the kingdom.) Yet unlike the Japanese government, private sector Japanese investors are not so bullish on Thailand. Japanese investors, the biggest group of foreign investors in the kingdom, have begun to shift new investments to Vietnam and other countries in the region. Other foreign investors have become increasingly cautious in approving new projects in Thailand.

ざっくり訳:日本政府は、昨年のクーデター後でさえ、タイ政府のご機嫌取りに必死だ。タイ暫定政権が中国に近づかないようにするためだ。中国の影響力を削ごうとする日本は、タイ国内の新たな鉄道計画への援助を発表した。これは中国がすでに発表した計画と同様のものだ。しかし、日本政府とは違い、日本企業はタイについてそれほど強気ではない。日本企業はタイでは最大の投資集団だが、すでに新たな案件をベトナムなど域内諸国に移し始めている。日本以外の投資国も、タイで新たなプロジェクトを始めることにますます慎重になっている。

クーデターに苦言を呈することもなく、2か月で2回もプラユットを日本に招き、しかも彼のご機嫌取りに終始する霞ヶ関・永田町と、利益や実務が生命線の日本企業との方針が乖離し始めていることを指摘している。日経にこういう記事は載るだろうか。載ったらぜひ見てみたいものだ。

テフロン・エコノミーが終焉したとき、日本政府は果たしてそれまでの責任をきっちり取るのだろうか。いや、無頭体制だから、いつものごとくそんなことはありえない。何もなかったかのようにまた恥知らずな政策を作り、執行するだろう。そんな日本政府の厚顔無恥こそ、「テフロン・ポリシー」「テフロン・ガバメント」と呼べるのかもしれない。

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