"The Interview"とヤンゴン

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これもまあ「表現の自由」といえばそうなのだが、北朝鮮指導者を暗殺しようとする米コメディー映画「The Interview」。北朝鮮が猛反発し、ソニーピクチャーズ・エンタテインメントにサイバー攻撃をかけたと米国が避難し、北朝鮮が否定して、そんな応酬が少し前まで海外ニュースを賑わしていた。

そんな北朝鮮が今、ヤンゴンで海賊版「The Interview」の撲滅に躍起なのだとか。New York Timesが報じている。

North Korean hand suspected as Myanmar sweeps up ‘Interview’ bootlegs(The New York Times, 2015/1/16)

DVD vendors in Yangon, Myanmar’s largest city, said that in recent days, officials from the North Korean Embassy had visited shops across the city, asking whether they sold bootleg copies of “The Interview.” Since then, the sellers said, police officers have begun a citywide crackdown on the pirated copies, sometimes accompanied by North Korean officials.

ざっくり訳。ヤンゴンの露店販売者に対し、北朝鮮大使館関係者が「The Interviewの海賊版を売っているか」と訪ね歩いている。以来、ミャンマー警察が、時には北朝鮮関係者に伴われながら、市全域で海賊版の取り締まりを行っている。

ヤンゴンの路上ではそういえば、スターウォーズ3部作を1枚のDVDに焼いたものなんかも売っていたっけ。まだまだ外からの刺激に飢えるヤンゴンでは、The Interview(もちろん海賊版)が今年に入って売られるようになり、ある露店では1日20枚も売れる「人気商品」だったとか。

記事によるとその背景にあったのは、

the North Korean ambassador, Kim Sok-chol, had complained about sales of “The Interview” when he met with Yangon’s chief minister a week ago, and had provided a list of shops selling it.

ざっくり訳。北朝鮮のキム・ソクチョル大使か1週間前にヤンゴン市幹部に会った際、The Interviewが(街頭で)売られていると不満を伝え、販売している店のリストを手渡した。

それを受けて警察も動いた、と。日本の記事ならせいぜい書いてもここまでだが、NYTはさらに進んで、「ミャンマーにとってかつての仇敵、北朝鮮は今でもミャンマーに影響力を持っている」と書く。

1983年、ラングーン(今のヤンゴン)で、墓参に来ていた韓国政府幹部に爆弾テロがあり、韓国側で17人、ビルマ(今のミャンマー)側で4人が死亡した。犯行は北朝鮮によるものとされ、当時のビルマは北朝鮮と断交。つまり喧嘩別れして接触を絶った。

しかし、ミャンマーはその後、軍事政権となり世界から孤立。経済発展もままならず、北朝鮮はご承知の通り。いつごろからか両国は接近し始め、ミャンマーの豊富な米と、北朝鮮の軽工業製品や武器が物々交換されるようになった。2000年代にはヤンゴンから少し離れた港に、北朝鮮の国旗を掲げた大型船が複数停泊するのも目撃できた。

ただミャンマーは2011年以降、スー・チーを釈放したり政治の表舞台から軍が姿を消したりと、「民主化」へ舵を切り、欧米と付き合う方向を目指した。従って、北朝鮮以上に物資で支援していた中国とも距離ができたとされていた。そんな背景を知っていると、NYTが指摘する「依然残る北朝鮮の影響力」が意外なもの、報じる意味のあるものだということが了解できる。

The Interviewをめぐって鋭く対立した(ように見える)北朝鮮とアメリカ。本日からシンガポールで非公式協議を行っている(共同、18日)。 本気で対立していれば非公式であろうがなかろうが、会うことはできなかったはず。こうやって会うところを見れば、また、北朝鮮は「6カ国協議首席代表を務める外務次官」なのに米側がボズワースら元職ばかりで非対称であるところを見れば、北朝鮮側が望んで開催されたものとも読める。

とすれば、The Interviewをめぐる非難も、「サイバー攻撃」も、会うための口実作りとも受け取れる。

とすれば、本国からの指令を真に受けてヤンゴンの繁華街をうろつき回り、海賊版販売者リストまで作った駐ミャンマー北朝鮮大使館はとぼけた役割になってしまう。そして、The Interview騒動の一番のとばっちりを受けたのは、人気商品をいきなり販売できなくなったYangon street vendorsだったのかもしれない。

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