タイで引き続き政権に居座っている軍が、LINEとFacebookに対し検閲を要請するという。日本ではベッキー不倫騒動で、メディアとしていかに大きくなったかに改めて注目が集まっているLINE。タイではどのように対応するか。LINEが社会的基盤としてさらに一皮むけるかどうかの試金石になるだろう。
“Thai junta pressures Facebook, Line to censor online posts” (Reuters, 2016年1月31日)
記事曰く、
Thailand’s military government will try to persuade media companies Facebook and Line to comply with court orders to remove content it considers harmful to peace and order.
(ざっくり訳:タイの軍事政権は、FacebookとLINEに対し、平和秩序(の維持)に害があると軍政が考えるコンテンツを削除するよう求めた裁判所の命令に従うよう要請する。
タイの軍は2014年5月に、民選のインラック政権に対するクーデターを起こして政権を奪取して以来、民政復帰をのらりくらりと先延ばしし、いまもそのまま政権にある。当然、政権を奪われたインラック派つまりタクシン派だけではなく、タクシン派に反対していた勢力からも「反民主的だ」と批判されている。
軍は物理的な暴力装置だから、こうした批判勢力はかつてのように路上に出てデモをすることには慎重にならざるを得ない。必然的に彼らは、非物理的な手段、つまりオンラインでの批判に力を入れることになる。
日本同様、タイでもLINEは広く使われている。国別ユーザ数は明らかではないものの、LINEの1月28日発表によると、
LINEの月間アクティブユーザー数は、グローバルで約2億1,500万人、主要4カ国(日本、タイ、台湾、インドネシア)では、約1億4,470万人(2015年12月末)となりました。(中略)特にトップシェアを取れている台湾・タイにおいてプラットフォーム化を進め、売上も伸長しています。
つまり、反軍政派も、1対1もしくはグループとしてLINEを使い、「軍政けしからん」などという発言をしたり、「いっそどこそこでデモをやろうか」という計画をしたりしている可能性が大いにある、それを軍政が問題視しているという状況にあるということだ。
この検閲要請に応じれば、LINEがユーザのやりとりの内容を操作可能であるということを満天下に示すことになるし、さらに削除などすれば、それこそコミュニケーションツールとしての生命線を自ら断つことになる。だれも信頼して使わなくなるからだ。
かといって軍政の「要請」をむげに断れば、終わりが見えない軍政下タイでのビジネスが危うくなりかねない。
LINEタイのFacebookページには、まだこの件に関する発言はない。もちろん日本のLINEにも。
1月22日には、YouTubeを抱えるグーグルにも同様の要請を軍政はしたようだから、タイではオンラインの巨人2社に並び立つ位置にLINEがいることも分かる。中国でのビジネスを確保するため検閲に協力した前科のあるグーグルと、中国に融和的とされるCEOがかじ取りをするFacebookが、この軍政の「要請」に対し、どう出るかを見るのも今後の楽しみだ。