タイ政府、ジカウイルスで冷静な対応求める

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タイ保健省は2日、蚊が媒介するジカ(Zika)ウイルスについて、「タイでは心配するに及ばない」と国民に呼びかけた。

Thai health ministry says don’t panic over Zika virus (Reuters, 2016年2月2日)

蚊が媒介する=暑いタイでも起こりうる=さあ大変!という思考に先回りしたものだが、よく記事を読んでみると、

Thailand is the worst-hit country in Southeast Asia, with an average of five cases a year since 2012, according to the Ministry of Public Health.

Thailand has confirmed one case of the virus this year.

(ざっくり訳)タイは東南アジアでは(ジカウイルス感染の)最悪の国であり、2012年以降、平均して年に5件の感染者が出ている。今年に入っても1件確認された。

つまり、「2012年以降、少数の感染者は出ているのであり、今更恐れることはない」というのが保健省の見解というわけだ。

なるほど、暑いタイならありうるわな~と思って少し調べてみると、実は日本人も過去に感染していたという。

国立感染症研究所によると

本邦においては、現在までのところ、2013年12月にフランス領ポリネシア、ボラボラ島の滞在歴のある男性(27歳)、女性(33歳)の2症例、および2014年7月に、タイのサムイ島に滞在歴のある男性(41歳)の1症例の、計3例が確認されている。

つまり、タイでの発生例のうち1人は日本人だったということになる。

同研究所はまた、

ジカウイルスは、1947年にウガンダのZika forest(ジカ森林)のアカゲザルから初めて分離され、ヒトからは1968年にナイジェリアで行われた研究の中で分離された。
ジカ熱は、2007年にはミクロネシア連邦のヤップ島での流行、2013年にはフランス領ポリネシアで約1万人の感染が報告され、2014年にはチリのイースター島、2015年にはブラジルおよびコロンビアを含む南アメリカ大陸での流行が発生し、地理的な拡大を見せている。

と書いている。つまりウイルスとしては古いものであり、HIV同様、サル由来でもある。

2013年にポリネシアで1万人も感染していたのにそれほど大きな問題にならず、なぜ今回、WHOが緊急委員会を開いて、「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態」 (Public Health Emergency of International Concern(PHEIC))(厚労省WHO)を宣言するに至ったのか。

一つには、ブラジルでジカウイルスに感染した妊婦から生まれた子供に、小頭症(microcephaly)のケースが出ており、その映像がニュースなどでよく流れたことがある。さらにはブラジルは今年、オリンピックが開催される地でもあり、日本などからも観光客が増えることが見込まれることがある。加えて、感染者がブラジルなど南米だけでなく中米にも広がり、この地域を訪れたアメリカやフランスの人にも感染者が出ていることがある。

ジカウイルスは、小頭症だけでなく、ギラン・バレー症候群の症例増加にも関係しているとみられているが、小頭症とは違い、衝撃的な映像にはなりにくいためか、国内の報道ではほとんど触れられていない。現在の報道を見ていると、ジカウイルス=小頭症といった図式だが、検疫所のサイトによると、

ジカウイルスが流行している地域で、先天異常、ギラン・バレー症候群、その他の神経症候群や自己免疫症候群が増加しています。まだ、関連性は明らかではありませんが、注意が必要です。

とはっきり書いているし、1月20日付の国立感染症研究所のリスクアセスメント(PDF)でも、

ジカ熱は大半が軽症例であることから輸入孤発例の公衆衛生上のインパクトは概して低いが、母子感染による胎児の小頭症との関連性について、詳細な調査結果が得られるまで、可能な限り妊婦の流行地への渡航は控えた方が良いと考える。また、ギラン・バレー症候群との関連性は現在調査中ではあるが、国内での症例の発生に備え、神経症状の合併の可能性について臨床医が認識していることが望ましい。

としている。なぜ国内報道からギラン・バレー症候群が消えたのか?

他方、蚊が媒介するウイルス感染としては、死者もでることがあるデング熱がある。代々木公園の蚊からウイルスが見つかって日本では大騒ぎになった。改めてジカウイルスについておさらいするには、WHOのFactsheetが便利だ。曰く、

  1. ジカウイルスによる病気(ジカ熱)は、ヤブ蚊(具体的にはネッタイシマカ・ヒトスジシマカ)が媒介するウイルスによる
  2. 感染すると、微熱や発疹、結膜炎をよくおこす。症状は2~7日間続く
  3. 現状、有効な治療やワクチンはない
  4. 防ぐ最良の手段は、蚊に刺されないようにすること
  5. ウイルスはアフリカや南北アメリカ、アジア太平洋地域でみられる

ここ数日の報道では、人から人への感染が確認されたなどのものがあるが、先の国立感染症研究所のリスクアセスメントには明確に、

その他の感染経路として、胎内感染の発生が複数認められており、また血液感染、性 行為感染の可能性も疑われている。

と記述されていて、たとえば咳や手が触れることでの感染は確認されていないことが分かる。

まとめると、妊婦や子どもは注意が必要だが、蚊にさされない対策をすれば少なくとも大人の健常者は心配するに及ばない、ということになる。軽症だし、他にうつす可能性も低いからだ。

とここまできてやっと、冒頭のタイ保健省の「呼びかけ」が実は的を射たものであることが分かってくる。ぐるっと一回りした感じ。

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