国土交通省の外郭団体で独立行政法人の国際観光振興機構(JNTO)は、サイト上では「日本政府観光局」というらしいが、ともかく1月20日、「2014年の訪日外客数は過去最高の1,341万4千人!」(PDF)という報道発表を行った。しかしお役所はなぜこうPDFへの直リンクが多いのだろうか。しかも発表資料がいかにもお役所仕事をそのまま写したようなもので、メディアが求める情報が直接得られないのはまあいつものこと。
それはともかく、前年から300万人以上増えたという。その理由を、
ビザの大幅緩和や消費税免税制度拡充のほか、アジア地域の経済成長に伴う海外旅行需要の拡大、円安進行による訪日旅行の割安感の浸透などが、2014 年の訪日外客数の拡大に寄与した。
また、観光庁、JNTO が中心となって継続的に取り組んできた訪日プロモーションとともに、日本国内のインバウンド業界の機運の高まりが、更なる訪日旅行の魅力の訴求に繋がった。
としている。これを国別にすると(順位、国名、入国者数、2013年順位、12年順位)、
- 台湾 282万人 2位、2位
- 韓国 275万人 1位、1位
- 中国 240万人 3位、3位
- 香港 92万人 5位、5位
- 米国 89万人 4位、4位
- タイ 65万人 6位、6位
となる。台湾が1位になるのは1998年以来。そして代わりに韓国が落ち、香港が上がり、米国が落ちた。こうした表を、受け取った側に作らせるのではなく、準備してこそ広報の評価も上がるというものだが、JNTOは残念ながらPDFを投げただけだった。
外国人旅行者が増えていること自体に賛否はあるだろうが、1300万や、2015年は1500万、2020年は2000万などという勇ましい声自体に、特段の意味があるわけではない。
なぜなら、入国者の増加は、国土交通省と法務省の綱引きの結果で決まるものだからだ。
国土交通省・JNTOは無論、入国者を増やし、自身の「訪日プロモーション」が成功したと言いたいだろう。旅行業者や観光産業をうるおせば、自陣営のプラスになる。一方、入国者が増えるということは、法務省管轄の入国管理業務が増える。つまり人員や拠点を増やす必要が出て、法務省にとっては出費にしかならない。母数が増えれば、入国してほしくない人物やモノが入国してしまう可能性も高まる。つまりリスクが増える。従って、法務省としては入国者は少なければ少ないほどいいという方向に動きがちだ。
実際、経済力をつけているタイ国民に15日間のビザ免除を許したのは2013年7月とつい最近のことだ。タイ側は日本人にノービザで30日間の入国を認めているのに、だ。ビザ取得の条件を緩めれば、入国者が増えるのは、潜在的に日本に旅行したかった人がより容易に旅行できるようになるから自明のことだ。1300万もそのスナップショットでしかない。つまり、国交省が勝利しつつあるという霞ヶ関の論理でしかない。1500万だろうが2000万だろうが、法務省が譲れば、何ら造作はないことだ。
もう一つ。台湾、中国、香港という「中国語圏」をすべて合わせると600万人以上。つまり日本に来る観光客の半分は中国語を話すということだ。そんな中国と諍いを起こすのは、本当に賢明なことなのだろうか。むしろ、この600万人にできるだけ気持ち良く帰ってもらい、日本ファンを増やしたほうが、どれほど日本のためになるか分からない。そんな冷静な議論も、このJNTOのリリースからは簡単に呼び起こせない。「いかにも」のお役所のやっつけ仕事だからだ。