構想力の差

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中国の習金平国家主席の著書「Xi Jinping The Governance Of China」が、中国語、英語、フランス語、ロシア語、アラビア語、スペイン語、ポルトガル語、ドイツ語、日本語に続き、カンボジアの公用語であるクメール語でも出版されることになり、カンボジア副首相が出席して祝賀会が開かれた。

Xi’s book on governance captivates Cambodian readers(新華社、2015年2月3日)

Released in September last year, the book, comprised of 79 speeches delivered by Xi between November 2012 and June 2014, offered insights of the Chinese leader on political issues and administration of a country. It also includes 45 photos of Xi.

ざっくり訳:2014年9月に出版された本書には、2012年11月~14年6月までに行われた習主席のスピーチ79編が収められており、政治問題や国の統治に関する考えが示されている。45葉の写真も掲載されている。

配信が新華社であり、また舞台が親中国のカンボジアでもあり、また、副首相が

The book has reflected Xi’s strong commitment and efforts toward deeper reform on governance.

などと発言するのも、すべてプロパガンダとして一笑に付すことは簡単だ。ただ、

China’s Alternative Diplomacy(Zheng Wang、The Diplomat、2015年1月30日)

を読めば、当の習金平が従来の外交や内政の方針を大きく転換したと指摘されている。周到かつ狡猾に、従来の国際機関、つまりアメリカを中心とする国際秩序に真っ向から反撃するのではなく、それと同様の機能を持つ「中国版国際機関」を設立することで、米国中心の国際秩序とは「別の道」を実質的には歩もうとしている。これが「オルターナティブ」と呼ばれるゆえんだ。

この分析の筆者が中国名だからと軽視する向きもあるだろう。しかし筆者は、米ニュージャージー州の大学に属し、ウッドロー・ウィルソン国際センターのフェローでもある。つまり、米国内からの視点となっている。

 

 

残念ながら現在の日本には、こうした冷静な分析やそれに基づく議論ができる素地がない。たとえばアマゾンで「習金平」と検索してみればよい。Googleで検索してみればよい。勇ましい言葉は踊るが、しかし、とにもかくにも13億人を動かす人物がどのようなビジョンと考え方を持ち、外部世界にどう対応しようとしているのか、それを説得力ある形で提示された文章を寡聞にして知らない。

その「Alternative Diplomacy」の一端として、クメール語の翻訳本があるとしたら、カンボジアの小さな話が「また中国の大ぼらか」で済まなくなってくる。

態度だけは大きいが思想や構想は貧弱などこかの国の首相は、戦後レジームを本当に変えるだけのビジョンを持っているのだろうか。もっと端的に言えば、本にまとめうるほどの演説をしただろうか。その言葉は後世に残す価値のある言葉だっただろうか。その内容は、諸外国の言語に翻訳されるほど意味のあるものになるだろうか。

背筋が寒々しくなるのは2月の冷えのせいばかりではない。彼此の指導者のありよう、その落差を知らない「井の中の蛙」状態がそうさせるのだ。

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