政と学の癒着

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タイのタマサート大で歴史学を教えていたSomsak教授が24日、大学から解雇された。

Thammasat University Expels Monarchy Critic Living in Exile(Khaosod、2015年2月25日)

直接の理由は、「大学に来るよう呼び出したにも関わらず、15日以上、その要求に応じなかった」ことによる。しかし、現在Somsak教授はフランスに逃げており、もとより大学のこの要求に応じられる状況にはない。従って大学のこの要求は、教授を解雇するための方便に過ぎない。

 

 

なぜ教授が逃亡せざるを得なかったか。それを上のKhaosod記事からまとめるとこうなる。

  • Somsak教授は、タイでは珍しく、表立って王室を批判する学識者だった。
  • 2014年の軍クーデター後、軍はクーデターに反対するSomsak教授ら学識者、政治家、活動家ら数百人を「attitude adjustment(態度矯正)」のため呼び出した。
  • Somsak教授は呼び出しに応じなかったため、軍は逮捕状を請求、のちにはパスポートを没収した。
  • 国外にいても教授は、王室批判などをSNS上に投稿し続けている。
  • 2014年12月に教授は辞表を大学に提出したが、大学は受け取りを拒否し、今回解雇した。従って教授は、辞職していれば受け取れた年金などを受け取れなくなった。
  • クーデター前の2014年2月には、軍が教授を批判、「social measures(社会的手法)」を用いて罰すると脅迫した。その数日後、教授の自宅に、通りがかりの車から発砲があった。

つまり、筋を通している教授に対して、20年勤めた大学がむしろ権力側に阿(おもね)り、自らの財産というべき教授を見放した事件といえる。

タマサート大の現在の学長は、Somkid Lertpaitoon(ソムキット)。彼は軍がクーデター後に設置した暫定議会の議員にも任命されている。つまり元々、クーデターを起こした軍とは共存する道を選んだ人物ではあった。このソムキット学長は日本の大学界でも知られた人物でもある。

こうした大学の姿勢に、反対が出るのは当然だ。たとえば同じKhaosodは、

Thammasat Students Protest Dismissal of Exiled Professor(2015年2月26日)

と、学生が抗議の声をあげたことを伝えている。また、

Thammasat lecturers rage over Somsak’s dismissal(Nation、2015年2月26日)

と、教授側からも異議が出たとしている。

その記事の中でソムキット学長は解雇の理由を、

Somkid insisted yesterday that he had signed an order firing Somsak on Monday not because of Somsak’s political stance, or because he was targeted under the lese-majeste law, but because he had failed to report to work for more than 15 consecutive days.

ざっくり訳:ソムキット学長は、教授を解雇した理由について、教授の政治的立場や教授が不敬罪の対象となっているからではなく、教授が大学に15日以上、姿を見せなかったためだと言い張っている。

としている。つまり本質的な問題ではなく大学の規則に従わなかったから、という論理だが、そんなことを信じる人はだれもいない。仮にこれが本当だとしたら、信条の自由を貫き通そうとした教授を守るのが本来の大学当局であるべきだが、ソムキット学長はそうはしなかった。むしろそんなささいなルールを盾に、教授をさらに経済的にも追い詰めようとしていると衆目は一致している。

苦しい立場になったソムサック教授だが、このように現在の心境を説明している。

in the situation that individuals who severely violated the laws have installed themselves as rulers of the country by illegal means, and aimed to cause harm to my life, body, and liberty in such a direct manner, I regard it as the rights and duty of a bureaucrat, citizen, and member of the Thammasat community to disobey, oppose, and reject their effort to jail and harm me.

ざっくり訳:法を犯した人物らが違法な手段で自らを国の統治者とし、私の生命、身体、自由をこれほどまでにあからさまな方法で脅かそうとする状況においては、私を投獄し、脅かそうとする彼らの試みに応じず、反対し、拒絶することは、公務員、市民、タマサート大の一員としての権利であり義務であると考える。

これほどまでの正論もない。ソムキット学長にはさぞかし耳が痛かろう。いや、もしかして痛くなるほどの耳はもう持っていないのかもしれない。

翻って日本の大学、学生、教授はどうか。信条の自由を脅かそうとする権力が現れた際、大学はその人物を守ろうとするだろうか。それとも、ソムキット学長のような態度を取るのだろうか。学生はきちんと反対の声を上げるだろうか。それとも、スマートフォンを覗き込んだまま知らぬふりをするだろうか。教授はきちんと「自由」を守れるだろうか。それともここぞとばかりに時の権勢者に取り入った曲学阿世ぶりを発揮するだろうか。

大学の成熟度、それは大学の「就職活動支援」や「ノーベル賞の獲得数」で決まるのではない。日本のほとんどの大学より、学生や教授がきちんと声を上げたタマサート大の方がまだ健全で成熟しているようにみえないだろうか。

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