君はミャンマーのETを知っているか

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2006年に軍によって政権を追われ、タイ本国に帰ることもままならないタクシン元首相。タイの西隣ミャンマーを訪問した。

Ex-MP: Thaksin visits Myanmar(Bangkok Post、2015年2月22日)

タクシン派の元議員が、ミャンマーを訪問した「友人」から得た情報という。しかもその「友人」から写真をもらった元議員が数日逡巡したうえでSNSに投稿したものという、ネタ元としてはかなりきわどいものだが、それでもニュースになるのはやはりタクシン。

記事に付された写真を見ると、若干老けたようではあるが、特徴的な頬骨やヘアスタイルは変わらず。周りに家族とみられる人物がいないのはなぜなのだろうか。

この写真は2月5日、この「友人」がビジネス目的でヤンゴンを訪問した際、市内のシュエダゴン・パゴダでたまたま撮ったものという。訪問の目的をタクシンは「Thaksin said he was on a trip to make merit」(善を積む旅行中)と語ったとか。従って「Thaksin told his friend he could talk about anything but politics」(政治以外のことなら話せる)のもやむなし。

この記事は「ある点」について一切触れていないから、この記事だけ読むと、「タイに帰れないからできるだけ近くの国に寄ったのかな」程度の感想しか普通の人は持てない。

しかし、タイやタクシンのことを少しでも知る人がこれを読むと、まったく別の感想を抱く。「きっとETに会いに行ったんだ」と。

あなたはミャンマーのETを知っているだろうか。

なかなか詳しいのがこちら。

Asia’s rich and powerful turn to ET for advice(Telegraph、2007年8月3日)

もう少し最近のものはこちら。

Myanmar mystics give supernatural help to Asia elite(AFP、2013年6月23日)

ETとは、本名をE Thiといい、アジアの権力者や事業家がこぞってそのご宣託を受けに行くというsoothsayer(予言者)だ。2006年のクーデターで追われたタクシンも、タクシンにクーデターをしかけた陸軍司令官ソンティも、当時ミャンマーを支配していた軍事政権のトップ、タン・シュエも、みんな同じsoothsayer、ETからアドバイスを受けていた。

タクシンはクーデターの危機が迫った時にも危険を冒して行ったし、ソンティは彼のラッキーナンバー「9」にちなんで9時39分にクーデターをアナウンスしたし、タン・シュエは外部から見れば狂気としか見えない首都移転(ヤンゴンからネピドー)を行った。

これらを「迷信に基づいた異常な行動」と切り捨てるのはたやすい。しかしそれは日本のものの見方で他国の行動を見るだけであり、「違う」という感覚以外、何物も産み出さない。重要なのは、タイやミャンマーの政治家たちが、自身の行動を決定する際の最重要な一要素としてE Thiをはじめとするsoothsayerを盛り込んでいるという現実だ。「違う」から「意味のない」のではなく、「彼らにとって重要」だから、「違う」ことには何の意味もないのだ。

このことさえ頭に入れておけば、ほとんどの国際問題は理解できる。そんな簡単なことができない学者や政治家も多いが、立場や職業ではなく、個々人がこのことに気付けば、ずっと豊かな思考、ずっと深い内的世界が築ける。ETは宇宙のどこかにいるのではなく、すぐ近くにいるのだと気づきさえすればいいのだ。

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