プレム、深南部での相互理解呼びかける

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アメリカで最も有名な日本人は、ヒロヒトだとかオノ・ヨーコだとかと聞いたことがある。それの裏返しはつまり、権力や金を含む「力」を真に持っている人はなかなか国の外では知られもしないし、伝えられたとしても「それはだれ?」になってしまいがちだということだ。

日本人がタイで知っている人といえば圧倒的にプミポン国王だろう。次点はタクシンだろうか。タイによく旅行をし、パクチー満載のタイ料理を好んで食べ、タイ語であいさつができるような人であっても、プレムを知っている人は多くないだろう。

Prem calls for steps to end mistrust in the South(Nation、2015年4月10日)

そのプレムが、ムスリムの多いタイ深南部で続く宗派間対立について、「不信や無理解が原因だ。それを解消すべきだ」と発言した。

記事の内容を読んでも当たり前のことであり、これまでに人口に膾炙している内容ばかりで、どこにもニュース性は見当たらない。通常ならこれがなぜニュースになるのか理解できないだろう。しかしこの記事のキモは、「プレムが公に発言した」という事実そのものであるのだ。逆に言えば、彼が何を語ろうがその内容のニュース性は二の次ということだ。

ではそれほどのプレムとは何者か。タイ国王に任命される枢密院のトップであり、元陸軍司令官であり、元首相である今年95歳だ。略歴はwikipediaでも見てもらうとして、彼が現職であるところの枢密院議長という職掌が、彼をそれほどまでに重要な存在にしているのだ。

これまたwikipediaで枢密院を読んで、さらに機能のセクションを読めば、枢密院が今後しばらくのタイ政治・社会にどれだけ影響を与えうるか分かるはずだ。現在の国王は病気がちでほとんどを病院で過ごしている。崩御した時、「国王の信任厚い」枢密院、特にその議長に与えられている権限が非常に大きい。また国王のみが任命できる枢密院の18人の出身を見れば、軍や裁判官、官僚が多いことが分かる。日本で言えば、勲一等をもらうような人たちと考えればよい。こういった層が「旧来エリート層」として、たとえばビジネスでのし上がったタクシンをつぶしたし、旧来エリートの支配にあきたらない地方や貧困層の支持を集めたタクシン派を意地になってつぶそうとしているのが、21世紀に入ってのタイ政治だ。

その一方がタクシンとすれば、他方の山の頂上に立つのがプレムだ。日本の新聞を読んでいても、タクシンやタクシン派という言葉は多く出てきても、プレムが出てくることはほとんどない。それほどまでにmedia-shyなプレムが公の場で、しかも政治的・社会的に機微に触れる仏教vs.イスラム教という問題に発言した、ということが、この記事の「ニュース性」なのだ。身体が弱っている国王よりも年上のプレムが、外部で発言できるほど健康であるということも、裏の「ニュース性」でもある。

だから、発言内容である「相互不信を乗り越えよう」なんていうお題目には当然、ニュース性はないし、ここまでの経緯を含めて長々と説明したい日本メディアもないから、ますますプレムは日本では報じられない。しかしそう遠くない将来、仮に国王が先に亡くなれば、嫌でもプレムの名は日本のメディアでも報じられるはずだ。

そういう時代の回転軸となるような人を知っておくと、ニュースがもっと面白くなる。アメリカではだれだろう、中国では、ロシアでは?そう考えながら、自分なりにそんな人物を探そうとすればニュースを毎日読みたくなるはず。

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