ドローンをめぐる不都合な真実

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プノンペン市が16日、droneもしくはquadcopterと呼ばれる「無人ヘリ」の利用を禁止した。きっかけとなったのは、ドイツ人がクワッドコプターを操縦して王宮内に飛ばしたことが発覚した事件だった。

Crackdown as drone buzzes palace(Phnom Penh Post、2015年2月16日)

市の広報担当者は、

The drone takes photos from the sky while the resident is taking a bath or eating in private. How do you think they will feel?

ざっくり訳:ドローンは、王宮内で王族らが入浴していたり食事していたりするプライベートを撮影する。そうされて王族らはどう感じると思うか?

と、飛行禁止とした理由を説明した。

これに対し、「Filmmaker and drone pilot George Jefferies」は、

In the UK, drone pilots need to register with the Civil Aviation Authority and the operator has to be insured. It would be good if Cambodia could implement a system like this so that video productions can still used drones in a controlled way.

ざっくり訳:イギリスでは、ドローン操縦者は民間航空当局に登録しなければならず、操縦者は保険にも入る義務がある。カンボジアがこうした制度を導入すれば、映像撮影がきちんとした方法で行えるようになるのに。

と、身勝手&自国価値観の押し付け丸出しのコメントをしている。

ドローン操縦が問題になったのはこればかりではない。

カンボジアとタイが領有を争う世界遺産プレア・ビヒアでは2か月前、ドローンが爆発し、両国の兵士が緊張する事件が起きた。

Unmanned drone explodes in sky over Cambodia’s Preah Vihear temple area(新華社、2014年12月7日)

そもそもこういう分野では先行するアメリカでさえ、ドローンの運航規制案をようやく出したところだ。

Press Release – DOT and FAA Propose New Rules for Small Unmanned Aircraft Systems(FAA、2015年2月15日)

主な内容としては、

  1. 機体は常に目の届く範囲でしか飛ばせない
  2. 操縦者を除いて、人の上を飛ばしてはいけない
  3. 高さ500フィート(約150メートル)、速度は時速100マイル(約160キロ)以下に限る

などをすべて守るべきとなっている。ただこの案については、「Proposed Drone Laws Rule Out Most Actual Commercial Uses for Drones」(Observer、2015年2月16日)が、

The Federal Aviation Administration (FAA) has been stuck with two cold truths. The first is that they have to make common-sense regulations that both protect Americans and allow both businesses and ordinary people to fly little quadcopter drones. The second is that they have absolutely no idea how.

ざっくり訳:米連邦航空局は2つの冷徹な事実に直面している。1つは、国民を守りながら、かつ事業や一般市民がドローンを飛ばせるように常識的な規制を作らなければならないということ。もう1つは、FAAがどうすればその2つの目的を実現できるかまったく知らないという事実だ。

というように批判されている。「ジェフ・ベゾス 果てなき野望-アマゾンを創った無敵の奇才経営者」が率いるアマゾンがドローンによる無人配達を目指しているが、この案では不可能になる。

アメリカがまだあやふやな状態なので、米国に追従することしかできない日本の国土交通省は「災害現場でドローンを飛ばしてみました」「河川管理でドローンを飛ばすので見に来ませんか」などというお気楽なPDFしか出せていない。現状では、「現状の航空法では航空機を『人が乗っていること』と定義しており、無人機は規制していない」(経済界、2015年1月29日)という、法制度が想定していない事態が起きている(参考)。

その一方で、静岡新聞がすでに取材活動に使っているなど、現実が先行しつつある。そもそも「ドローン」は米軍などの無人攻撃機を呼ぶことも多いから、ラジコン程度の小型機に対する名称としてはふさわしくないとの指摘もあって、「カメラをそなえた超小型無線操縦機」に対ししっくりする名すらも統一されていない。クワッドコプターがイメージには近いが、プロペラが4機とは限らないから、これもまたすっきりしない。

 

そんな落ち着かない状況にある中をどう整理するかは、国を動かす者の責務のはずだ。しかし、どこかの国の物好きが皇居上空に無人機を飛ばして皇族の姿をパパラッチした後、その無人機が爆発・墜落でもしない限り、この国の政治家は動かないのだろうか。霞ヶ関のビルの間を無人機が飛び回り、省庁のマル秘文書でも撮影しない限り、無人機を産業化したい経産省と権限を強化したい国交省の綱引き程度しかできない官僚らは動かないのだろうか。

広くニュースを知らなければ、こんな大人になってしまう。我が子にはせめて、広く知ることの意義をじっくり教えたいと思う。

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