タイと日本の温度差

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日本はとにかく自国の技術力に妄信があるため、原発だ新幹線だと技術輸出に熱心だ。タイのクーデターでシビリアンの首相を追い落とした陸軍司令官のプラユットが暫定首相として初来日しても、最も強く発したメッセージは「民主主義」ではなく「新幹線輸出」だったようだ。

鉄道整備協力で覚書=日タイ首脳が会談(時事、2015年2月9日)

この記事によると、

安倍首相は「民政復帰を一日も早く成し遂げることを期待する」と促すとともに、タイのインフラ整備支援や投資を拡充していく方針を伝えた。両首脳は「タイ全土の鉄道整備に関する協力の可能性を追求する」との覚書を交わした。

これをタイ側から見ると、

Prayut right on track with rail investors(Bangkok Post、2015年2月16日)

Shinzo Abe last Monday scored a goal for Japan that his country badly needed to even the great rail rivalry with China.

と映る。現在のところ、「The score so far: Japan 1, China 1. But the great train battle between these two investment heavyweights for Thai turf is far from over.」でやっと中国に追いつけたという状況だ。

 

とはいえ、さっそくタイ側からは実情に即した解説も出ている。

Difficulty in implementing high-speed train to resort provinces(MCOT、2015年2月14日)

タイが計画している「高速鉄道」(新幹線ではない)そのものが、実現にはかなり高いハードルがあると指摘している。まあ、川沿いで地盤が悪く不可能だと長く言われてきたバンコク地下鉄を日本の協力で通した前例もあるため、目指す高速鉄道が不可能とまでは言わないし、MCOTは政府系メディアだから記事は中国寄り官僚から出た話と一蹴できないとも言わない。

しかし、「技術が優れていれば世界はそれを採用する」という安直な妄想は、すでにあまたの例で打ち砕かれてきた。もちろんプロモートすることは大切だが、それより今大切なのは、タイに進出した企業が安心して経済活動をできるようにタイ側に求めることなのではないのか。

おりしも14日のバレンタインデー、日本のデパートのチョコ売り場が人いきれにまみれる日に、バンコクでは、

Rare anti-coup protest in Thailand(AFP、2015年2月14日)

があり、数十人と参加者は少ないながら、バラやジョージ・オーウェルの「1984」(こちらは一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫))を配り歩いた。このプラユット暫定首相は、市民に「相互監視」を求め、反対者にはlese majeste(不敬罪)を乱発し、政権を明け渡す選挙の予定すら明確ではないからだ。

従って、仮にも「民主主義国家」を安倍が標榜するなら、

THAILAND: Orwellian Dystopia at its Finest(Asia Media International、2015年2月13日)

このような指摘をすることこそ必要だったのではないか。それをできない口が言う民主主義ほど空しい言葉はない。

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