「イスラム国」はテロリストではない

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シリアで日本人2人を殺害したグループ、the Islamic State of Iraq and al-Shamについて、2015年2月1日、後藤氏が殺害されたことが分かった後、安倍首相は「非道、卑劣極まりないテロ行為に強い怒りを覚える。テロリストたちを決して許さない。その罪を償わせるために国際社会と連携していく。人道支援をさらに拡充していく」(読売新聞)と語った。

つまり、ISISはテロリストであると認識している。このISISをどう呼ぶかをめぐる論争でも、「ISISは国ではないのだから、『イスラム国』といくらカッコをつけたとしても国と呼ぶべきではない」といった意見が主流になっている。

これらはすべてconventional wisdom(社会通念)。これに挑戦するのがparallel news。こんな記事がある。

ISIS Is Not a Terrorist Group(Audrey Kurth Cronin、Foreign Affairs、March/April 2015)

「フォーリン・アフェアーズ」という米外交業界にも一定の影響力を持つ雑誌に載った論文だ。筆者は米ジョージ・メイソン大のAudrey Kurth Cronin教授。How Terrorism Endsというサイトも運営している。

曰く、

ISIS hardly fits that description, and indeed, although it uses terrorism as a tactic, it is not really a terrorist organization at all.

ざっくり訳:ISISは(テロリストの)定義に当てはまらない。テロを戦術としては使っているが、ISIS自体はテロ組織ではまったくない。

と宣言する。その理由は、

Terrorist networks, such as al Qaeda, generally have only dozens or hundreds of members, attack civilians, do not hold territory, and cannot directly confront military forces. ISIS, on the other hand, boasts some 30,000 fighters, holds territory in both Iraq and Syria, maintains extensive military capabilities, controls lines of communication, commands infrastructure, funds itself, and engages in sophisticated military operations. If ISIS is purely and simply anything, it is a pseudo-state led by a conventional army. And that is why the counterterrorism and counterinsurgency strategies that greatly diminished the threat from al Qaeda will not work against ISIS.

ざっくり訳。アル・カーイダのようなテロネットワークは、人員は数百人程度であり、(軍よりは)民間人を狙い、領土は持たず、正規軍とは正面切って対峙しない。一方でISISは、3万人の戦闘員を抱えると豪語しており、イラクとシリアで勢力下に収める「領土」を持ち、(原油採掘など)インフラを運営し、自らの費用を賄い、洗練された軍事作戦を行っている。ISISを純粋かつ単純に見つめれば、それは従来型軍隊に率いられた疑似国家ということになる。だから、アル・カーイダの力を大きく減らすことのできた対テロ作戦が、(疑似国家である)ISISには通用しない。

つまりISISは、他国に承認されていないという意味で「国家」ではないが、慣習国際法における国家の3要件である「領土、住民、実効的支配」は満たしている「国家」だということになる。パレスチナやバチカンと同じような組織と、国際法上は言えるということだ。従って、ISISを消滅させようと思えば、小さな国家をつぶすだけの覚悟と戦闘力がいるということになる。

だから「ISISは国ではない」という議論は、実態に頬かむりして空論を振りかざしているだけに見える。もちろん、Foreign Affairsはある種の知的ディベートをする場でもあるから、「ISISはテロリストではない」という論は、その刺激的な題名も含め、議論を起こさせるための触発材になろうとしている感も否めない。

それでも、テロリズムとは本来、少数者が他に手段がなく訴えるものという面もあることを考えれば、ISISをテロリストとレッテルを貼ることはかえって現実を直視しないことにもつながりかねない。むしろ、あの蛮行は、「テロ」などではなく、「疑似国家による他国への脅迫」ととらえた方が実際に即しているのではないのか。

アメリカは地上部隊の派遣を決めた。ISISという疑似国家に、果たして日本はどう立ち向かうのだろうか。

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