Taxi mafia in Bangkok

約10年間、タイで暮らしているという日本人が、バンコクのスワンナプーム国際空港に降り立った後、不快な思いをしたというフェイスブック投稿がタイで波紋を巻き起こしている。

Japanese expat’s Suvarnabhumi outrage goes viral(Bangkok Post、18日)

「アジア随一値段が高くアジア随一不愉快な空港スワンナブーム」という文章から始まる書き込みを読むと、イミグレーションを通過するのに30分かかった、ブースは空いているのに職員は埋めようとしない、ミニバンタクシーの運転手がメーターではなく交渉で料金を取ろうとした、その不満を現場係員らに訴えたが取り合ってもらえなかった、などと書いており、「タイ人の良識を疑われるような行為がタイの玄関である空港で平然と行われている。外国人に不当な不便を強いる彼らはタイの恥にならないか」と結んでいる。「いいね」数が2万5000以上、シェアも1万5000以上ある。

日本語とともにタイ語で発言されているので、FB好きのタイ人に広くシェアされたのだろう。日本語だけだったらここまで広がりはしなかったはず。

ただ、その発言内容には首をかしげる点もある。バンコクのタクシーは雨の日や繁華街などでは乗車拒否が当たり前。やっと拾えたと思ったらメーターではなく交渉でしか走らないと言い張り、断ると「降りろ」と言われる。相手がバンコクの地理を知らないと分かれば迂回したり渋滞個所をわざと通ったり。中には物騒なドライバーもいないではない。従ってよく「taxi mafia」などとも称される。特に以前はドンムアン空港、現在ではスワンナプーム空港では、当局とグルになって、旅行者(=金払いがいい)からぼったくる機会を狙っているドライバーも皆無ではない。

しかしこうしたことは、バンコク在住者であれば「常識」の範囲。そこをどう切り抜けるかが生活の知恵となっている。発言者が10年もタイに住んでいるのであれば、被害に遭ったことや遭いそうになったこともあっただろうし、悪評高きバンコクのタクシーについての話を聞かなかったことはないはずだ。

もちろんタイ人もこうした「taxi mafia」の存在を恥ずかしいと思っているし、だからこそ新設された空港と市内の直結鉄道Airport Linkに嬉々として乗る。悪質ドライバーを通報する電話番号もあり、タクシー関連の情報を流すラジオ局すらある。そうしたタイ人の心境も思わず、今更のごとく「恥」と指弾するのは、実はタイ人のことがよく分かっていないのではないのか。

付け加えれば、こうした「taxi mafia」をむしろ味方につけて勢いを増したのがタクシン元首相だった。運転手らは日本のようにタクシー会社に所属したり個人で車を持っていたりしているわけではない。胴元のようなところから車を借りて、ガソリン代は自前というシステムだ。車の借用代が高くて搾取されていたうえ、いろいろといちゃもんをつける警察官への袖の下なども必要で、生活に汲々としていた実態もあった。そうした仕組みを一時的にも是正したのが警察官僚出身のタクシンだった。だから運転手には今でもタクシンファンが多い。

発言者が来タイした10年前といえば、タクシン全盛だったころ。そうしたバンコクの空気を詳しくは知らないまでも、肌で感じていなかったのであればおかしい。まあ、別の投稿を見ても、ホーチミン市のタンソンニャット空港で「ここは本当に共産主義国家だろうか」(ベトナムの正式名称は「ベトナム社会主義共和国」)と発言しているし、またその投稿に併記している英語も怪しいし、発言を真正面からとらえていてはいけないのかもしれない。

もし発言者と同様の状況になったら、タイ人は「マイペンライ(It doesn’t matter)」と軽やかにいってそのタクシーを降り、また次のタクシーを待つだろう。問題が起きてもそれを柳のように軽く受け流せる余裕こそ、タイ人の微笑みをもたらすものだからだ。

【参考になる本】バンコク 裏の歩き方(知人が書いています)

 

3件のコメント

  1. 発言者当人に電話取材したBangkok Postが続報を書いている。

    Former superhero, child actor Koki regrets fallout from online rant

    Bangkok Postがよくやる手だが、しれっと初報を訂正している。記事によると当人はタイに住んでいるのではなく、「10年間、たびたびタイを訪れている」のだとか。問題の運転手がスワンナプーム空港に出禁になり、それについて「空しく感じる」と述べている。

    しかし、この続報の最大のニュースは、フェイスブックでは「山崎銀次郎(弘毅)」と名乗っている当人が、映画「子連れ狼」(若山富三郎版)の大五郎役、富川晶宏と報じている点だった。46歳ということだから、本当に出演していたとしてもおかしくない。これでやっとなぜ「the online pseudonym “Koki Aki”」 なのかが少しわかった。

    続いて「富川晶宏」でネット検索すると。ああ、知らなくていいことも知ってしまった。
    どこかの記者、ジャーナリストが彼について記事にしてくれないかな。

  2. タクシー運転手側の「反撃」があったとBangkok Post。タクシーに「日本人お断り」と書かれた紙が貼られているのがツイッターで出回っている、という内容。
    Airport cabbies retaliate against Japanese passengers(1月21日15:01)

    この貼られた紙、タイ語はともかくとして、日本語で「日本人乗客の停止」、英語で「Cessation of Japanese passenger」でかなり怪しい。「the Taxi Driver Pauthai Suvarnabhumi Association」の名で出したとされているが、記事ではその協会のトップが、「the group(=association) did not make or sanction it」(協会としては作成もしていないし許可もしていない)と否定。

    このBangkok Post記事では分かりづらいが、タイ字紙Khaosodは、
    Taxi Association Condemns ‘No Japanese Passengers’ Sign
    という記事で、同じ協会トップに話を聞いて「he had nothing to do with the notice, and only found out about the sign from social media today」、つまりSNSでは見かけたが、協会としてはまったく関わりない、という話を載せている。

    実際にスワンナプームで確認したわけではないが、空港でこの紙を掲げているタクシーはないのだろう。Bangkok Postがよくやらかす勇み足だ。

    タイの掲示版などでは、「日本人の乗車を断ったら商売が成り立たないのでは」「そもそも運転しているのは日本車だが、それでもいいのか」などのツッコミも入れられている。

    面白いからといって出元をよく確認せずRTしたりシェアしたり拡散したりしたら後で恥をかくという一例ですね。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


Warning: Trying to access array offset on value of type null in /home/paranews/8avo.com/public_html/wp-content/plugins/amazonjs/amazonjs.php on line 637