イラワジイルカ、また1頭減る

カンボジアのメコン川で、イラワジイルカが死んでいるのが発見された。村民らがその死を悼んでいる。

River dolphin found dead by Laos border(Phnom Penh Post、2015年4月6日)

体長2.5メートル、200キロのメスで、かなり年は取っていたようだが、死因は不明。記事によると、

The dolphin was one of just six estimated to be in that stretch of the Mekong, and is one of 28 to have died since 2011, according to the conservation group WWF. (中略)

The death occurred just two weeks after WWF voiced concerns over the high rate of death for the species, especially during the dry season when water levels fall. With just 85 Irrawaddy dolphins believed to remain in the Mekong

ざっくり訳:WWF(世界自然保護基金)によるとこのイルカは、周辺流域に生息しているとみられるわずか6頭のうちの1頭で、2011年以降、死んだのが分かっている28頭目となった。(中略)今回の事件は、イラワジイルカの死ぬ割合が近年、特に水量の少ない時期に高まっているとWWFが懸念を表明したわずか2週間後に起きた。メコン川全域では85頭しか生息していないとみられている。

当然、WWFも声明を出している。

Mekong River dolphin death reduces Lao population to five(WWF、2015年4月7日)

これによると、隣接するラオス側ではわずか5頭しか確認されておらず、絶滅の危機に瀕しているという。

ラオス側では、イルカを傷つける恐れのある漁網を川の一部でしか使用禁止としなかったり、中には爆弾や毒物を使う漁がひそかに行われたりしていることも、イルカが多く死ぬ原因とされている。地元当局もWWFも保護には取り組んでいるが、なかなか成果は出ていない。

インドシナ半島では暑期にあたるこの時期、メコン川の水量も減る。水が減れば、イルカの泳げる面積も当然減る。つまり水量の減少はイルカの生態に大きな影響を与える。それなのに中国は、電力をまかなうためにメコン上流にダムを建設しているうえ、中流より下流でも、ラオスやカンボジアにダム建設を持ちかけている。タイも自国の電力を賄い、ラオスに外貨収入を得させるため、本流にダム建設を進めている。メコン川の水の権益をめぐり、中国と、下流側のラオス、タイ、カンボジア、ベトナムの4か国とが対立する構造にもあり、4か国はメコン川委員会(Mekong River Commission)を結成して利害調整を図っている。

つまり、イラワジイルカの危機は、単にある種の絶滅ということではなく、政治的、外交的な問題まで論じることも可能な「題材」になりうる。

パンダやトキ、小笠原のアホウドリなら敏感に反応する日本メディアだが、これほどまでに報じるべき要素が多いイラワジイルカを報じることはない。なぜなら現場は、プノンペンからですら悪路を車で5時間もかかる地域であり、もちろんきれいなデスクも快適なクーラーもない自然の中だからだ。もしくは、ニュースを嗅ぎ取る鼻が劣化したか、アンテナが折れているかだ。

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