バングラデシュでバングラ系アメリカ人ブロガーが殺害された。「Atheist」(無神論)を自称していたため、過激派イスラム教徒からmachete(ナタのような山刀)で襲撃された。
Bangladesh’s Charlie Hebdo? American atheist blogger murdered in Dhaka(Vox、2015年2月27日)
この記事が問いかけているように、自分の考えを表明した人物がイスラム過激派に殺されたという点で、フランスのチャーリー・エブド襲撃との類似を嫌でも想起させる。この事件の余波が冷めやらぬ中でもあり、世界中の主要なニュース媒体はもちろん、このニュースを報じた。報道の自由や信条の自由がない中国でさえ。
Bangladeshi blogger Abhijit Roy hacked to death(新華社、2015年2月27日)
多くがイスラム教徒のバングラデシュにあって、この事件では襲撃者を非難する大規模なデモも起きた。メディア側とすれば絵的にも映える素材だった。Voxによると、
Bangladesh has been struggling for years over the role of Islam in its politics, and atheist bloggers have been targeted in the past. In 2013, another blogger was killed in a similar attack, and the government arrested several writers and blocked websites in a crackdown on religious dissent.
ざっくり訳:バングラデシュでは近年、政治におけるイスラム教のあり方について議論が巻き起こっており、過去にも「無神論者」ブロガーが標的とされた事件が起きた。2013年には同様の襲撃を受け別のブロガーが殺害されたため、政府は数人のライターを逮捕したほか、宗教的な意見の異なりを取り締まる一環でいくつかのウェブサイトを閉鎖した。
ともいうから、この事件を機に、普段はあまり知ることのないバングラデシュのメディア事情や宗教感情をまとめて伝えるという手もあったはずだ。
そして犯人はすぐ捕まった。
Bangladesh arrests chief suspect in US blogger murder(AFP、2015年3月2日)
これほどまでに報じない理由がないニュースだったが、日本の大手紙で伝えたのは毎日新聞のみだった。毎日は28日朝刊の外信面トップでまず事件を報じ、夕刊でも続報を掲載した。ちなみに28日朝刊で読売はウクライナ、朝日はガザ地区のルポだった。読売は、訪日を前にしたウクライナ外相の単独会見だったからまだ分かるが、朝日のガザは何もこの日でなくてもいい。1面やデジタル版とも連動させて気合は入りまくっているが、表現の自由などにとかくうるさい朝日としては、この日、バングラを落とした価値判断の失敗がより滑稽に映る皮肉な結果となった。
日本メディアの「short memory」ぶりは今に言われたことではないが、今回のバングラ事件では毎日新聞がニュースの価値判断を最も的確に行ったといえる。部数や経営で厳しいと言われる毎日だが、ことニュース判断という点ではまだまだ健全なところを示した格好となった。
ちなみに、テレビのアナウンサーでさえ時おり「バングラディッシュ」となぜか皿になってしまうが、英語表記を見ればわかる通り、「バングラデシュ」なのでお間違えないよう。