相次ぐ脱北者ならぬ脱「中」者

ウイグル族の17人が2014年3月、タイ当局に拘束された。カンボジアから陸路でタイに不法に入国した疑いという。17人のうち2人は拘束中に生まれた赤ん坊。通常の不法入国なら出身国に国外退去となって終わりだが、この問題はそう簡単ではない。

Tug-of-war between China, Turkey over suspected Uighurs in Thailand(Reuters、2015年3月24日)

彼らはトルコ人であると主張、拘束中にトルコ大使館からパスポートの発給も受けた。トルコは当然、彼らをトルコに送るべきとしている。一方、中国は、彼らが新疆ウイグル自治区から逃れた者たちと言い張り、新疆、つまり「中国」に戻すべきとしている。

新疆ではここ数年、爆弾テロなども起きており、北京政府はウイグル族に対し強力な締め付けを行っている。このため、

Hundreds of people have been killed in unrest in Xinjiang in the past two years, prompting a crackdown by Chinese authorities and small numbers of Uighurs to try and flee the country.

Hundreds, possibly thousands, have traveled clandestinely through Southeast Asia en route to Turkey.

ざっくり訳:過去2年の間、新疆ウイグル自治区で起きた騒動で数百人が殺されたため、中国当局による取り締まりが行われ、ウイグル族の中には国を離れようとする人たちも出た。これまでに数百、おそらく数千人が東南アジアを経由してトルコにひそかに逃れたとみられる。

上の地図を見て現実的に考えれば、トルコ国籍のグループがカンボジア経由で陸路タイに入る可能性は少ない。むしろ、中国から雲南やラオス、つまりメコン川に沿って南下し、トルコとの直行便もあるタイに逃げ込んだという方が正しいのだろう。

ではタイはどうすべきか。中国が言う通り新疆に戻せば、中国は彼らを潜在的なテロリストとして再び自分の監視下に置くことになる。一方、トルコや人権団体の言い分をのめば、中国の不興を買うばかりか、「タイに行けば逃げられる」との噂を呼び、さらに一層の脱「中」者の殺到を招く恐れがある。

中国、トルコ双方とも友好関係にあるタイにしてみれば、いい迷惑だ。とばっちりを受けたとも言える。しかし同じ状況は、数年前に頻発した北朝鮮からの脱北者にも言えた。

脱北者は中国国内を通ってラオスを抜け、タイやカンボジアで入管当局に出頭し、北朝鮮への送還ではなく第3国への脱出を望んだ。タイは、脱北者が多かった期間、国境警備や不法入国者の拘束施設の運営で金銭的にも、送還を求める北朝鮮と「第3国」との間に挟まる交渉で外交的にも、かなりの負担を強いられた。その再来は、タイにとって一種の悪夢だろう。

今回の事象も合わせて考えると、中国や北朝鮮という抑圧的な国から逃れた人たちはなぜかタイを目指す。暖かい南国の空気が、それによる楽天的な人々の包容力が、北の国でひどい目に遭っている人たちを引き付けるのだろうか。やはり人は北風より太陽を求めるのだろう。

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