1月20日午後、イスラム過激派組織ISISが日本人2人を殺害すると警告する映像をYouTubeなどで流した。
それを各紙は21日朝刊1面などで報じた。最終版トップの見出しは以下の通り。
- 読売:日本人2人殺害警告/「イスラム国」か 2億ドル要求
- 朝日:「イスラム国」2邦人人質/2億ドル要求 「断れば殺害」
- 毎日:日本人2人殺害」脅迫/「イスラム国」が人質映像
- 日経:「イスラム国」日本を標的/2邦人殺害警告 2億ドル要求
- 産経:「イスラム国」日本人殺害警告/湯川さんら2人か
各社とも「イスラム国」をカギカッコでくくっている点が共通しているが、読売はイスラム国であることに留保を付けた。毎日と産経は2億ドルが落ちている。産経は「湯川」と人名を入れた。しかしどの新聞も、21日朝の時点ではすでに、新聞自身のウェブサイトを含めネットメディアやテレビがさんざん報じていることを越えず、それ以上の情報はなかった。
もちろん、フローの情報を朝夕刊という時間の区切りで紙という媒体に固着させる機能は、新聞の一要素として重要かもしれない。その一方で、ネットやテレビと違い時間的に余裕が新聞にはあったはずで、新たな視点や俯瞰で見たときにしか見えないものを提供できる可能性もあったはずだ。
たとえば、日本人が少なくとも1人はISISに捕らわれていることを知っていながら、安倍は阪神淡路大震災20年の追悼式典を欠席してまで、なぜ中東をわざわざ訪れたのか。外務省や警察庁はこの中東訪問を止めたのか、止めなかったのか。「人命を最優先」という安倍の言葉は「2億ドルは話にならないが、身代金自体は払う用意がある」という意味でよいのか。公開された映像が、疑われている通り合成されているのだとしたら、ISISは何のためにそんな手の込んだことをやったのか。これまでISISから解放された人はいるのか。いたらどうやって解放されたのか。(参考:ISIS Releases 46 Kidnapped Indian Nurses. Freed Nurses Say They Were Treated Well、Dramatic Developments and Diplomacy: How India Secured its Nurses’ Release in Iraq)
普通に生活し、ニュースに接していれば抱くであろうこのような疑問に、こたえる時間が新聞にはあったはずだ。そんな疑問にこたえようとしたのか。それともそんな疑問すら現場の記者や本社のデスクは抱かなかったのか。後者だとしたら、新聞の未来は相当暗い。
新聞の部数が減っているのも、スマホの普及やネットの浸透という外部要因だけではないだろう。「昨日知ったことを翌朝読む」だけなら、こんなばかばかしいことはない。翌朝読んだ時に新たな発見や驚き、つまり新たな価値が付加されていなければ購読料を支払いたくないというのは、ごく当たり前の消費者心理に過ぎない。
魅力ある商品を作っているのか。その問いを新聞制作の現場が常に問いかけていると信じたい。
このニュースに接して抱いたいくつかの疑問に、CNNが答えてくれている。
ISISの身代金要求を巡る6つの質問 日本人人質事件(1月22日11:39)
フランスが身代金を払っていること、身代金の相場が200~400万ドル(ざっと2~4億円)であること、「身代金を払わない」とするG8合意に日本は加わっていることなどがきちんと書かれてある。
やはり先述の疑問を持つのはごく自然だったと感じる一方、日本人の問題なのに日本のメディアがこうした記事をまだ書けていないことがやはり気になる。
情報元はやや怪しいものの、日刊ゲンダイが外務省の怠慢を書いている。
日本人2人を放置…怠慢の外務省内では「いい迷惑」の放言も(1月22日)
今になってISISとの「接触がない」とか言っている時点で、「これまで何もしていません」と告白するのに近いとは思っていたが、やっぱり、という感じ。
それに72時間の期限がいつなのかという点も「日本政府がビデオ映像を確認した」14時50分ごろだそうで。どうにもこうにも自分の都合よく解釈することしかできない手合いに、2人の生命がゆだねられているのは何とも悲劇だ。