世界遺産アンコール遺跡などを管理するApsara Authorityが激怒している。The Phnom Penh Postが「Nude photos draw Apsara Authority’s ire」(2015年1月26日)と報じている。
怒りの理由は、中国企業WANIMALがアンコール内のバンテアイ・クデイ(Banteay Kdei temple)で胸もあらわな女性のヌード写真を撮影、それを中国の写真共有サービスやフェイスブックなどで公開していたからだ。Apsara Authorityにしてみれば、
Angkor is a religious, sacred site for Cambodian people. This kind of behaviour is very insulting not just to our religion but also to Khmer identity
ざっくり訳。「アンコールはカンボジアの人々にとって宗教的かつ神聖な場所だ。このような行為は我々の宗教だけでなく、クメール(カンボジア)のアイデンティティに対する冒涜だ」
まあ、共産党が支配する国で宗教に対する理解があるのかどうかもまず表面上は怪しいし、ましてや中華思想の持ち主たちが他国の民の心情を理解しようとするのかも怪しいし、もっと言えば、中国人の公衆道徳やマナーの欠如は今に言われたことでもないので、このような事件が起こっても何の不思議はないばかりか、「やりかねない」と首肯してしまう自分がいる。
もちろん、すべての中国人が共産主義を信奉しているのでも、中華思想を持っているのでも、公衆道徳をわきまえないのでもないことは重々承知だが、現代中国の人々の振る舞いに接した個人的経験からすれば、圧倒的に「アンコール・ワットでヌード写真」派が、「大地の子 全4巻完結セット (文春文庫)」派に比べ多いのは間違いないし、もしかして大地の子派なんてもういないのかもしれないと思わせるほど。
しかしこの記事から読み取るべきは、単なる「やりかねない」とか中国バッシングではない。むしろ記事最後段に出てくるこの部分が重要。
Officials at the Ministry of Culture and Fine Arts said the investigation is up to the authority, while the Ministry of Information could not be reached yesterday about whether the photos could be considered illegal.
The government has previously taken issue with similar images. In 2009, it blocked an artist’s website when photos and paintings of scantily clad Apsara dancers offended the Ministry of Women’s Affairs.
ざっくり訳。「文化芸術省は、(問題を)調べるのはApsara Authorityであるとした。一方、この写真が違法かどうかについて情報省には(担当者不在などで)確認できなかった。2009年にほとんど裸のApsaraダンサーの写真や絵が出るという同様の問題が起きたとき、カンボジア政府は制作者のウェブサイトをブロックした」
つまり09年には政府は断固たる処置をとったが、今回は「Apsara Authority次第」とか返答しないとかで、のらりくらり。カンボジアはASEAN内でもラオスと並んで親中国派といわれている。自国の伝統文化を守ることと、中国からの多大な経済支援とを天秤にかけ、何とか中国の機嫌を損ねないようにという官僚らの自己保身が働いたともみえる。そこには、様々な暗黒面を知りつつ中国の金にすがらざるを得ない小国の悲哀すら見えてはこないだろうか。
嫌中、嫌韓の論説は歴史的文脈を声高に叫びはするものの、ではなぜ当事者がそのような行動や態度を取るのかといった複眼が欠けている。「中国人だからあんなことをしても当然」と指弾するのは、実は、思考の省略、思考の短路線化、思考の放棄であり、従って何万回繰り返しても憎悪以外の何物も生み出さない。
無駄のためだけに生きるには人生は短すぎる。アンコール遺跡に残る数々の「Khmerの微笑」はそんなささやきを秘めている気がしてならない。
同じく自民族中心主義をとるフランス人も、同じくアンコール遺跡、しかも同じくバンテアイ・クデイでヌード写真を撮り、国外退去となった。
French tourists in nude Cambodia photo scandal to be deported(AFP、2015年2月1日)
20代の男ばかりというから「若気の至り」と言えなくもないが、どうしてあのアンコール遺跡に言って、自らのヌード写真を取ろうという気になるのか、理解に苦しむ。
中国といいフランスといい、「自国が最も優れている」という過度の思い込みを持つ国の悪弊を見る気がする。