タイ政府は8日、フランスのファッション雑誌Marie Claire(仏版)を発禁処分にした。王室に関する記事が問題視されたためという。
Thailand bans Marie Claire magazine for lèse majesté(Prachatai English, 2016年4月8日)
記事はごくごく短く、「出版法第10条の規定により、販売、輸入、出版が禁じられる」といっただけで、肝心の問題視された記事についても、
The article talks about a member of Thai royal family.
ざっくり訳)問題の記事は、タイの王族についてのものだ。
だけ。王族のうちのだれなのか、そして何が書かれていたのかは分からずじまい。王室関連の話はタイではセンシティブなため、地元メディアではいくら英語版でも書けることはほとんどない。
では海外メディアはといえば、たとえば
Thailand bans old edition of Marie Claire for insulting monarchy(Reuters)
Thai police ban old Marie Claire magazine issue(AFP)
などがあるが、ロイターもAFPも、肝心の記事内容については書いていない。いや、書けない。問題の内容を報道することすら「不敬罪」に問われる恐れがあり、ひいては両社がタイで取材活動できなくなる可能性があるからだ。
だから両方の記事とも、タイの王族がどのような社会的意味があるのかや、過去の同様事例を紹介することで字数を稼ぎ、この問題が長文報道に値する「事件」であることを示そうと苦肉の策をとっている。
Prachataiが報じていなくて両社が報じている内容として、問題視されたのが2015年11月号であるという点。つまり月刊誌としてとうに旬が終わっている、しかもフランスで出版された号であるという点だ。
マリー・クレールはタイ版も出している。こちらによると、10万部発行されているとのことだが、90バーツ(約300円)の雑誌がそれほど出ているとは思えない。せいぜい都会の若い女性が買う程度だ。しかもこちらははなから、問題の記事は出ていなかったのだろう。
わざわざフランス版を買う、つまりフランス語を読める高所得者かつファッションに興味がある人がタイにどれだけいるのか不明だが、今回の発禁の実質的な影響はほとんどないと言ってよい。
なぜ問題の記事が今頃になって問題視されたのかは謎だが、今回の発禁処分で分かったのは、駐フランスのタイ大使館は11月号が発刊された際にこれを察知できなかったこと、つまり情報収集能力が欠如していたということだろう。
言論を封じたつもりだったが、実は政府の欠陥をあぶりだすことになった。何とも滑稽な政府の動きではある。