ベトナム中部にあるカムラン湾(Cam Ranh Bay)をめぐり、ロシアとアメリカが綱引きを行っている。
Russia rejects U.S. concerns over Vietnam base role in bomber flights(Reuters、2015年3月13日)
カムラン湾は南シナ海に面する天然の良港で、植民地時代のフランスやベトナム戦争時のアメリカなども活用していた。ベトナム戦争でアメリカが負けた後、「共産」ベトナムのものになり、ベトナムはアメリカへの対抗上、当時のソ連に利用を許した。冷戦が崩壊し、ソ連・ロシアの国力が下がった2002年、ロシアが撤退。ベトナムは市場経済に移したこともあり、米越接近のしるしとして米艦なども訪問するようになった。カムラン湾は大国とベトナムの関係を示す、そんな港であり地名である。
今回のReutersの記事は、ロシアの戦略爆撃機の給油地としてカムラン湾にある空港を使えないようにするよう、アメリカがベトナムに要請していることに対し、ロシアが「ばかじゃないの」と一蹴したという内容だ。ロシア国防省は、
It is strange to hear such statements from representatives of the state whose armed forces are permanently stationed in a number of Asia-Pacific countries and which continues to increase its level of military activity in the region.
ざっくり訳:自国の軍隊をアジア太平洋地域の国々に永続的に駐留させ、地域の軍事行動のレベルを増加させているような国の代表から、そんな発言を聞くことになろうとはおかしなことだ。
とアメリカ国務省を皮肉っている。アメリカの発言とは、前日の12日、国務省報道官が定例会見で、「We have urged Vietnamese officials to ensure that Russia is not able to use its access to Cam Ranh Bay to conduct activities that could raise tensions in the region」と話したことだ。
この戦略爆撃機とは、核兵器を搭載して常に空中にいて核戦争を警戒し、自国が核攻撃されても空中で生き残り、核兵器で応戦、報復するという役割を担っているものだ。アメリカも世界中に置いた米軍基地や、空中補給機で同様のことをやっているだろうし、たとえばイギリスはその役割を潜水艦に担わせている。
ロシアの反論は、「自分もやっていながらアメリカは他人に難癖つけるな」ということに尽きるし、至極ごもっとも。とはいえ無論、現状では単に双方が相手を言葉で牽制しているという程度に過ぎない。
ただこの記事の妙味は、いよいよ米露がかなり明白にツノを突き合わせようという方向に向かっており、それがアジアの片隅のベトナムでも起きたという点にある。これまで利害が異なっても表面上は良好な協力関係をアピールしてきた両国が、おそらくウクライナ問題をきっかけに、「もう繕うのはやめた」という姿勢に転じたようにみえる。
現在の分はロシア側にある。プーチン政権は盤石に見えるが、オバマは今年で任期を終えるため、今何か新しい戦術、新しい方針を打ち出しにくい状況にある。だから今、アメリカ側の反応を見るときは、オバマや国務省ではなく、大統領候補たちや共和党がどう応じているかを見るのが順当だろう。
「米露は次はどこで角を突き合わせるか」「それに対してクリントンや共和党はどう反応するか」という視点を持ちながら、世界のニュースやアメリカ大統領選の記事を読めば、単に情報を伝えるだけの記事しかメディアから提供されていなくても、自分なりにニュースを見て、楽しめるようになる。
日本ではテレビはおろか新聞ですらこういう視点を持って米露の言葉の応酬を報じないから、通信社が単発で打ってくる記事の面白みが分からない。もったいない、もったいない。