日本人にとって最も有名なミャンマー人、アウン・サン・スー・チーが今年秋に行われる総選挙をボイコットする可能性に言及した。
Suu Kyi says boycott of Myanmar election an option(Reuters、2015年4月3日)
その核心が以下の発言。
“We don’t think that boycotting the election is the best choice,” said Suu Kyi, when asked whether her party would run with the constitution unchanged. “But we’re not ruling it out altogether. We are leaving our options open.”
ざっくり訳:憲法が改正されないままとしたら国民民主連盟(NDL、スー・チーが党首)は選挙に参加するのかとの質問に対し、スー・チーは、「選挙ボイコットが最良の選択とは考えていない。しかしそれをまったく排除したわけでもない。選択肢は何でも可能な状態にしてある」と語った。
かなり微妙な言い回しだし、ロイターの質問に答えさせられた感もある。誘導尋問的とも言える。ロイターが見出しにした文章も、確かに間違いとは言えないが本当にずばりそうなのかといえば心元ない。
どうしても大統領になりたいスー・チーは、自身の大統領立候補を妨げている現行憲法を改正せよとずっと求めてきた。軍出身のテイン・セイン大統領は話し合いはしているものの、実際に改正手続きが始まっているわけでもない。つまりこのままの状態が続けば、総選挙は現行憲法で行われる可能性が高く、従ってスー・チーは大統領にはなれない。そんな総選挙に参加するのか、というのがロイターの質問の意図だ。
これまでもNLDは、軍事政権が行ってきた選挙をボイコットしてきた歴史がある。だから次回もボイコットしたといっても、そんなに驚くことではない。ただ、2012年の補欠選挙からNLDは参加に転じ、そこで圧勝、スー・チーも議員になったという経緯と実績もある。ミャンマーという国にとっても、またNLDにとっても、総選挙ボイコットは大きな損失になるだろう。
スー・チーが公に初めてボイコットに言及したというので、時事通信や読売、毎日もロイター電を転電した。ただ意義付けはあまりしていない。転電という名の翻訳と考えればよい。
それよりさらにおっとり刀で追いかけたのはイギリスのGuardian。
Why Burma still needs Aung San Suu Kyi(Guardian、2015年4月6日)
首都ネピドーで直接スー・チーにインタビューして「ボイコット」言質を取ったロイターとは違い、ガーディアンはロンドンからの電話インタビュー。記事後段になって、
Asked if there were circumstances in which her party would boycott the elections, she replied: “I don’t entirely rule it out, no. I think if you’re a sensible politician you don’t entirely rule out anything.”
ざっくり訳:NLDが選挙をボイコットするような状況がありうるか聞かれたスー・チーは、「ボイコットも除外したわけではない。何らかの事態をまったく除外するような人であれば、賢明な政治家とは言えないだろう」と語った。
と、ボイコットも選択肢といえる言葉は引き出しているが、ロイターの「特ダネ」の後ではかすんでしまう。従って、見出しにも取れなかった。
違う方向から考えると、スー・チーは、聞かれた場合にはすべて同様に答えているのだろう。今の時点で「ボイコットはしない」と明言しては、大統領への脅しもきかなくなる。そりゃ人間なのだから、可能性はどんな事態についてもゼロとは言えまい。
Guardianの記事は羊頭狗肉すぎて笑えるものだった。やはり抜かれた悔しさで箸にも棒にもかからない追いかけ記事を書いて体面を保とうとするのは、洋の東西を問わないようだ。
次のボールはテイン・セイン大統領側にある。この発言にどう反応するか、しないのか。そこにも両者の駆け引きがうまれる。そんな期待をしながらニュースを待っていると、いざ起きたときに楽しめる。ニュースを追う楽しみはそんなところにある。