ミャンマーのスー・チーが、テイン・セイン大統領や軍幹部らと昨年10月以来2度目となる会談を首都ネピドーで行った。
Aung San Suu Kyi holds rare talks with Burma’s military leadership(Reuters、2015年4月10日)
参加者はほかにミン・アウン・フライン陸軍司令官、上下両院の議長、少数民族政党の代表エイ・マウン。朝日新聞は、会談の内容を「憲法改正」と決めつけたが、ロイター電はエイ・マウンの発言を以下のように取っている。
We discussed three things, the constitutional amendment, the upcoming election and the peace agreement in a very friendly and cordial atmosphere.
ざっくり訳:我々は3点について議論した。憲法改正と(11月の)総選挙、そして(政府軍と少数民族の)和平合意について、親密な雰囲気で話し合った。
朝日新聞だけを読んでいると、会談の議題は憲法改正であり、今のミャンマーにとってそれしか重要議題がないかのように受け取れる。しかし、11月の総選挙は和平が進む中で初めておそらくほぼ全国的に行える選挙だし、このままいけばNLDが最初から参加する選挙として1990年以後初めてとなる選挙ともなる。そして当然、和平合意は国内の火種を絶やすという意味で大きな意味を持つ。
無論、3つのことを言うより一つに絞った方が、記事としては分かりやすいし、ミャンマーのことにほとんど興味を持っていないであろう一般読者には親切かもしれない。しかしそうやって「紙幅の制限」をいいことにバランスを欠いた記事を量産していると、一般読者の世界を見る目をゆがめることになるし、そして何よりプロの目に耐えられない。つまり、二兎を追って一兎をも得ないことになる。
そして何より、朝日記事が触れていないのは、ロイター電にある
(He=エイ・マウン) said the participants had agreed to meet again before parliament resumes on 10 May.
ざっくり訳:エイ・マウンによると、議会が始まる5月10日までに再度集まることで参加者は合意した。
という情報だ。朝日記事はかなり前途に悲観的だが、少なくとも6人は話し合いを継続することには同意している。しかも、いつもは饒舌なスー・チーもその報道官も今回の会談について何もコメントを出していない。こうしたニュアンスを丁寧にくみ取らないと、「思惑が走った記事」「先入観を持って書いた記事」と批判を浴びることになる。
つまり情報源が一つだけだと、その時点でそのソースの傾きや色合いだけを受け入れることになる。それが心地よい人はそうすればいいが、人間の脳みそも、そしてこの世界も、そんなに単純ではない。せっかく授かった脳みそと、せっかく生まれ落ちたこの世界なのだから、もっと活用しなければ損だ。