コーカン紛争が可視化された

ミャンマーのコーカン地域をめぐる紛争で、ミャンマー軍機が中国側を攻撃、中国人の死者が出た。いよいよエスカレーションの様相を示し始めた。

China summons Myanmar diplomat after bomb kills four(Al Jazeera、2015年3月14日)

まあまあ、「アル・ジャジーラなんて引用して」というなかれ。中国にもミャンマーにも大きな利害を持っていないだけに、かえって冷静な報道ができるというものだ。特に欧米系にも、もちろん新華社にもない情報として、

Al Jazeera’s Florence Looi, reporting from Yangon, said Kokang region has been under a state of emergency since mid-February and that there are few independent reports coming out from the area.

ざっくり訳:ヤンゴンにいる当社記者によると、コーカン地域は2月中旬から非常事態令が出されており、同地域からの中立的な(=検証可能な)情報はほとんど来ないという。

つまりミャンマー側から外部の者がコーカン地域に入ることは難しく、従って事態が客観的に監視できない、ということになり、

This appears to be the worst spillover of violence into China since fighting began in the Kokang region more than a month ago.

ざっくり訳:コーカン地域で1か月以上前に戦闘が始まって以来、今回は暴力的な事態が中国側にまで及んだ(spillover)最悪のものとみられる。

このため、ようやく日本のメディアも重い腰を上げて報じだした。最も正確かつ目配りのきいた記事を書いたのが日経15日付国際面トップの「ミャンマーと中国 緊張」。ヤンゴン発の記事で、ミャンマー側だけでなく中国側の情報も盛り込んだうえ、今年秋に行われる総選挙に向け、国軍が宥和姿勢を取れないこと、国民の国軍に対する応援感情を、選挙で苦戦が予想される政府与党が利用しようとしていることなどを指摘している。行数も十分、地図も的確だ。中国側の反応は別稿で北京発を載せ、バランスも取った。

次に目立ったのは朝日15日付国際面トップ「ミャンマー 『共に調査』」。これは見出しを付けた編成が下手すぎて見出しだけでは意味不明なのが惜しまれるが、爆弾が落とされたという雲南省臨滄市に入った記者と、北京・ヤンゴンの記者による合作となっている。しかしせっかく現地に入ったのに、本文最初が「新華社によると」と書き始めてガックリくるし、中国側の情報に偏りすぎていて、日経が指摘したような重要な点がそっくり抜け落ちている。おそらく北京の記者が臨滄やヤンゴンの情報をまとめて書いたのだが、ふだん中南海の記事しか書きなれていないため、こういう生の情報と歴史的・政治的文脈をからめて書けない記者なのだろう。地図にせっかくの臨滄が入っていないのも大きなマイナスだ。

外したのは読売15日付国際面「ミャンマー軍機 中国に爆弾」。トップでも2番手でもなく3番手、しかも囲み記事の扱い。生ニュースでこれはない。トップはおそらく休日用に発注しておいたとみられるインドとスリランカ、2番手も決まりもののイスラエル総選挙。どちらも別にこの日でなくてよかった。北京発の記事自体も全面的に中国の情報だけで、文脈を示して見せた日経、現地に近づいた朝日と大きく見劣りした。毎日も北京発で、読売と同様の内容だった。

まあどうせ中国側の事情を書くのなら、「The Han that rock the cradle」(Economist、2015年3月14日)ぐらいは書いてほしいが、新聞ではちょっと難しいか。

ともあれこの日の報道を見てわかるのは、

  1.  日本のメディアは死者が出ないと報じない。死者が複数(多ければ多いほど)出ればすぐ報じる
  2. 朝日の北京駐在は、広域に及ぶような記事をまとめる筆力と取材がない
  3. コーカンには入れないようだが、臨滄には記者も行けるらしい(=制限はされていない様子)。なぜ今までだれも行かなかったのだろう
  4. ことミャンマーが絡むニュースであれば、日経の記者が最も情報を持っていて、きちんと分析した記事を書ける

ということだろう。

いきなり突発的に起きたニュースではない。少なくとも1か月はくすぶっていたし、これまでも「Neglected ongoing stories」(3月7日)や「紋切り型報道の陥穽」(3月13日)で書いてきたように、海外メディアは逐次報道してきた。それらを読んで、いったん事態が悪化したらこう書くという方針を作っておく時間はあったし、材料もふんだんにあったし、臨滄に行くこともできた。

ふつうに考えれば、「中国が爆撃された」という事実だけでも極めて珍しいことだ。南シナ海ではベトナムやフィリピンが中国と小競り合いをしているが、中国の土地を爆弾で攻撃し、死者が出るというのはないし、それだけでも目新しい。

映像がなければどんな大きなニュースでも報じにくいテレビとは違う。新聞は、もっときちんと仕事をすればもっと可能性があるのに、その可能性を生かすような仕事をあまりしていないのは、なんともはや、外野として歯がゆいばかりだ。

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