誰がために傘を消す

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ミャンマーで1枚の写真が話題になっている。「まるで北朝鮮のようだ」と。

Photoshop disaster over a disappearing umbrella in Burma(Telegraph、2015年3月21日)

写真は記事を見ていただくとして。ミャンマーの社会福祉・救済復興省のSu Su Hlaing副大臣が最南部のコータウン(Kawthaung)を視察で訪れ、飛行機から降りた際の写真だ。中央の女性が副大臣。その足元に明らかに傘の影があるのに、副大臣の頭上に傘はない。右側の青い服の男性の右手が伸びており、副大臣に傘をかけているように見えるが、やはり傘はない。

問題の写真は、ミャンマー情報省のフェイスブックページに掲載されたが、SNSでこの謎の影が話題になった後に削除されたという。よほど興味を引いた話題だったのか、民主派ウェブサイトIrrawaddyBBCが20日に報じて以降、世界のメディアで断続的に伝えている。ただ当然、日本メディアにはこのニュースがない。

なぜ傘を消したかについてTelegraphは、Irrawaddyを引用する。

The reason for the deletion of an apparently harmless umbrella was not immediately clear. However, the most likely explanation was that a man shielding a woman with his umbrella was something “considered embarrassing for the former in male-dominated Burmese culture,” the newspaper speculated.

ざっくり訳:問題のない傘の影を消した理由は明らかではない。ただ、イラワジによると、最もありそうな理由はこうだ。男性が女性に傘をさしているのは、「元は男尊女卑のミャンマー文化において、(男がとるべき行動として)ふさわしくないと考えられるからだ」。

この「影だけの傘」が明らかになったことで、ミャンマー政府が画像を加工して発表している実態が見えたことになる。傘を消すぐらいならかわいいが、本来は写っているべきものを消すというのは情報操作であり、「北朝鮮や中国のようだ」という批判につながっている。イラワジに至っては、これをShadowgateと呼んで、政府の大失態だと指摘している。

言ってみれば担当レベルの単純なミスだろう。写真に写っているものがすべてではないことは、メディア・リテラシーの基本だろう。政府に批判的なメディアが、政府の失態をことさら面白おかしく取り上げたり、悪評高い外国になぞらえたりするのも日常だろう。

「この写真、なんか変だよ」という素朴な感想から、「政府はやはり情報操作をしている」までの間にはかなりの隔たりはあるが、その振幅のどこかにあなたの意見も存在している。さて、あなたの意見はどこにあるだろうか。

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