サムイ島で車爆発、7人負傷

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タイ南部のタイ湾に浮かぶサムイ島(Ko Samui)で10日、ショッピングモール地下に置かれたピックアップトラックが爆発、イタリア人を含む7人が負傷した。

イタリア人が巻き込まれていることから分かる通り、日本人を含む外国人もよく行くリゾート地だから、読売や共同通信も記事を流している。ただし、記事が短いうえに読売は「テロの可能性」、共同は「背景は不明」としていて、いつもながらさっぱりわけが分からない。こういう時は英文記事を読むに限る。

Car Bomb Explodes at Thai Resort(Diplomat、2015年4月13日)

もちろん地理的に見ればサムイ島もタイの南部ではあるし、爆発した車がヤラー県で盗まれたものというから、ヤラーを含む深南部で継続中の仏教徒対イスラム教徒もしくはタイ政府側と分離主義者側の暴力の応酬が飛び火した、と見ることはできる。これは読売が示唆している点。

上に引用したDiplomatも、まず第一に深南部のテロを事件の背景に挙げている。ただ加えて、「他にも2つの可能性がある」とも書いていて、第一はタクシン派(赤シャツ隊)、第二は地元ギャングを列挙した。赤シャツ隊とみられる人物がバンコクのショッピングモール前に2015年2月に爆発物をしかけたことがあった。タイ国内の報道ではむしろこちらが怪しいとされ、

Red shirt Arrested, Accused of Link to Samui Bombing(Khaosod、2015年4月13日)

とか、監視カメラに映っていたという「青シャツ」まで怪しいと、どたばたする始末。

‘Man in blue’ ruled out as Samui bomb suspect(Bangkok Post、2015年4月14日)

もう一方の地元ギャングについてDiplomatは、

last month, Thai security forces launched a string of raids on Koh Samui, targeting criminal enterprises, drug sellers, and local mafia. More than 750 police and soldiers took part in raids on 26 venues, arresting five suspects. The bombings could be in retaliation for these attacks, or simply to discredit the junta that seized power on May 22.

ざっくり訳:先月、タイ治安部隊はサムイ島で一連の取り締まりを行い、ドラッグ密売人や地元マフィアなど犯罪集団を標的にした。750人以上の警察や兵士が動員されて26か所を捜索、5人を逮捕した。今回の爆発はその報復であるか、単に軍事政権を貶めようとした事件である可能性がある。

と詳しい。

ただ、タイメディアや日本メディア、そしてDiplomatが書いていない点がいくつかある。

一つは、タイミング。10日は金曜日で、その週末を過ぎた13日はタイ暦の新年(ソンクラーン)であり、タイ人にとっては「年末年始の休暇」にあたり国内外を移動する時期であること。

二つは、ロケーション。ショッピングモールの地下駐車場ということは、観光客よりはむしろタイ人へインパクトを与えたいものと考えられる。外国人なら買い物にモールには行くだろうが、タクシーなどの移動手段を取るだろう。地下駐車場をより使うのはタイ人だ。

三つは、狙われたターゲット。日本メディアやDiplomatにはないが、このモールは「Central Festival」といい、バンコクにも多くあるCentralグループの1店だ。2014年フォーブス誌によると、これまで1位だったCPグループのオーナーを抜き、Centralグループのオーナーがタイで最も資産を持つ富豪となった

つまり、人を怖がらせるという意味でテロではあるが、外国人というより、むしろかなり内向きの要素が強い。

それなのに外務省はあわてて海外安全スポット情報をサムイ島に出し、まったく参考にならない抽象的かつ非現実的なアドバイスをオウムのように繰り返している。

Diplomatでは、推理小説の大原則にのっとり、「この事件で最も得をするのはだれか」と考えたのだろう。こう結論付けている。

Whoever was responsible, the impact is clear. The National Committee for Peace and Order will use the threat of violence to the nation’s massive tourist industry to continue justifying its draconian rule under Article 44. Clearly the junta is going to do everything it can to link the attack to the Red Shirts, for political purposes, despite contradictory evidence.

ざっくり訳:だれの仕業だとしても、そのインパクトは明白だ。軍事政権は、タイの巨大旅行産業に対する脅しを利用して、抑圧的な支配を(暫定憲法)44条のもとで正当化し続けるだろう。政治的目的のために、軍事政権は今回の事件を赤シャツ(=タクシン派)と結びつけるために何でもするだろうが、それは証拠とは矛盾している。

つまり、「外国人が多く来るサムイ島で赤シャツがテロを行った。だから取り締まるためには軍事政権が(独裁的な)強制力を持たなければならない。だから暫定憲法44条を発動するのだ」という理由にできるということだ。

この事件が軍事政権にとってのたまたま起きた僥倖だったのか、それとも推理小説の原則はここでも当てはまったのか。それとも別の可能性の方が当たっているのか。あなたならどう考えますか。

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